※※第43話:Make Love(&Love!).7
「きゃあ―――っ!」
ラウンジには、色んな悲鳴が轟いた。
ナイフを手にした充は、和枝めがけて突進した。
「いやぁ―――っ!」
和枝はうずくまる。
(あわわわわわ!)
慌てふためくナナの手から、いつの間にか、こけしちゃんの手はすり抜けていた。
(………あれ!?)
こけしちゃんは、火事場の乙女力に火がついたようだ。
「ゾーラ先生のいずれ婚約者さんをぉ、殺しちゃダメぇ!」
ぺちっ、
ナイフは、こけしちゃんの手刀により、呆気なく振り落とされた。
「えええ!?」
ナナを含め、醐留権以外の人々はびっくり仰天。
「なんだこのガキ!」
充は、こけしちゃんに食ってかかろうとした。
「こけしちゃ――――――――――ん!!」
ナナはちからの限り叫び、立ち上がってこけしちゃんを助けようと死に物狂いで駆け出した。
しかし、
「やぁぁっ。」
ダン!!!!
こけしちゃんの必殺技、背負い投げが、見事なまでに充に炸裂しちゃいました。
「えええええ!?」
ほとんどが仰天したが、一番の仰天具合はなんてったってナナさんだった。
「ぐぇ……」
情けない声をあげて、充は伸びた。
「最低なのぉぉ。」
顔を両手で覆い、泣きだすこけしちゃん。
場がポカンとするなかで、ナナは腰を抜かしていた。
醐留権は立ち上がり、こけしちゃんへと歩いてゆく。
床に落ちたナイフは、ホテルの従業員が拾い上げた。
「桜葉、顔を上げなさい。」
肩に手を置いて醐留権がやさしく言うと、
「…グスッ、」
涙でびしょびしょになった顔を、おもむろに上げたこけしちゃん。
醐留権は肩に手を置きながら、その涙をゆびでそっと拭う。
「和枝さん、」
そして、後ろの和枝に言った。
「この子は、あなたの命の恩人だ。」
と。
「ま、まぁ、そうですね、」
ぎこちなく、和枝は笑う。
「命の恩人には、きちんとお礼をしてから、謝ってくださいよ?一時間もの道のりを、歩いて帰らせたんですから。」
醐留権の言い方は穏やかだが、声は穏やかでなかった。
「ゾーラ先生ぇ、知ってたのぉぉ?」
グズつきながら、こけしちゃんが尋ねると、
「それくらいわかるさ。」
そのあたまを撫でて、醐留権は穏やかな言い方と声で告げる。
「ありがとう…、とりあえず、ごめんなさい…」
和枝はしぶしぶ、謝った。
「和枝、あなたはなにをやってるの!?」
「お母さんは黙ってて!」
どうやら、本当に母親でした。
「会社の再生だかの為のお見合いだったけど、要さんがあまりにもかっこいいから、私、探偵を雇って色々調べたの。そしたら、いい感じの生徒がいるって聞いたから、それだと断られると思って…」
「だからって、あなたは!」
これは、修羅場か?
片方だけ。
和枝は探偵相手に、探偵を雇ったようだ。
あ、こっちは探偵じゃなかった、先生だった。
「いいじゃないですか、」
ふと、醐留権が口にしたセリフは、
「和枝さんには、見合いをぶち壊したうえに、殺そうとまで思ってくれている男性がいる。私にも、そんな見合い相手を守ってまで、私を想ってくれる女性がいる。互いにとても、幸せなことだ。このお話はなかったことにすれば、誰ひとりとして不幸にならずに済む。そうは思いませんか?」
そんでもって彼は、微笑みました。
和枝たちは黙っていたが、ラウンジの皆さんは心で頷いた。
「桜葉、怪我はないかい?」
この質問に、こけしちゃんは、大丈夫ですぅぅ。と応えようとしたのだが、
「なに!?腕が痛い!?それは大変だ!私の家で、大至急、手当てをしよう!」
わざとらしく大声で心配そうに叫ぶと、醐留権はこけしちゃんを引っ張って歩きだした。
「あのぅ、ナナちゃぁんがぁぁ、」
「三咲なら、なにも問題はないさ。」
ぐいぐいと歩いてゆくふたりに、
「要!悪いけどお母さんも一緒に、乗せて行って!」
やっぱり母親だった女性が、いそいそと駆け寄っていった。
(おおおわぁ!こけしちゃーんっ!良かったねぇえ!おめでとーう!!)
感動とホロリのあまり、ナナは拍手をし出して、
パチパチ…
次第に拍手は大きくなっていった。
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