※※第43話:Make Love(&Love!).7





 「やっぱり当たってた?こけしちゃん、」
 「うんぅ。間違いないのぉぉ。」
 ひそひそと会話を交わしているふたりには、そのオンナは全然気づいていない。

 「やっぱりぃ、あのオンナぁ、嘘ついたのぉぉ。ゾーラ先生ぇと付き合ってるように言ってたけどぉ、今日初めて会うってぇ、言ってたもんぅ、ゾーラ先生ぇはぁ。」
 おっとりと言うこけしちゃんは、それでも両手を握りしめている。

 「酷い人だね。そういう嘘はほんと、たちが悪いよ。」
 大人しくもナナは、憤慨しまくっている。


 そのとき、

 「あ、」

 ラウンジに、醐留権が入ってきた。



 醐留権も母親らしき女性と歩いており、なにしろ立派なスーツ姿である。


 「ゾーラ先生ぇのぉ、学校以外でのスーツとかぁ、ほんとかっこいいのぉぉ。」
 「わかるよ!好きなひとのスーツ姿とか、かっこよすぎて困るよね!写真撮りたいよね!」

 387歳と15歳の、ひそひそ乙女トーク。



 席に着くまえ醐留権は、視線を巡らせたのでちゃんとふたりに気づいた。
 ふたりは乙女トーク中だったので、このことに気づかなかった。


 ちょっとだけ笑った醐留権は、席に着いた。
 彼は機嫌が良さそうなので、見合い相手は、自分に都合の良い方へと勘違いをしたようだ。


 挨拶をしてから、醐留権の見合いは開始された。





 「会話がまったく、聞こえてこないね…」
 「うんぅ。でもぉ、ゾーラ先生ぇ、なんだか嬉しそぉぉ。」
 こう言ってこけしちゃんは、肩を落とした。

 「やっぱりぃ、大人な女性のほうがぁ、魅力的だよねぇぇ。」
 しょんぼりする、こけしちゃん。

 「なに言ってるの?こけしちゃん、魅力というものは、そんなもんじゃないよ。」
 元気づけようとしたナナは、気づいた。

 彼女は醐留権と、目が合ったのだ。


 (………そうかぁ!)


 ナナは醐留権へ向くように座っていたが、こけしちゃんは背を向け座っていた。




 「あたしぃ、ほんとぉぉはぁ、ゾーラ先生ぇをぉ、引き留めたかったのぉぉ。」
 泣きそうになるこけしちゃんだが、


 それはこけしちゃん絶好のチャンスだよ!
 とナナは、ちいさく叫ぼうとした。


 ぎゅっ

 そしてこけしちゃんの手を取った瞬間、



 「和枝(かずえ)ーっ!」



 ラウンジに、オトコの叫び声が響き渡った。









 その場にいた人々は、ギョッとしていた。

 「充(みつる)…、」

 口を開いた、和枝とは、

 (ぇえ!?)

 醐留権の、見合い相手だった。


 「和枝、昨夜まであんなに愛し合っていたのに、今朝になって“別れて”とは、どういうことなんだよ!?」
 息を荒げている充は、ダボダボのTシャツによれよれのジャージである。
 おまけにビーチサンダル。


 「お客様…、」
 ホテルマンがなだめようと、恐る恐る声を掛けたが、
 「うるさい!黙ってろ!」
 充は叫び続ける。


 「これは、どういうことですか?」
 醐留権の母親(だと思う)が、相手側に尋ねると、
 「いやぁ、何かの、間違いですよ……」
 相手側の母親(だと思う)は、冷や汗をかいて答えた。


 「充、邪魔をしないで。あたなとはもう、何の関係もないの。」
 和枝がきっぱりと言い切っても、
 「どうせ、体だけの関係だったんだろ!?毎晩のように、おれに抱かれてたクセに!」
 なんとまあ、充は赤裸々である。


 「まぁ…、」
 ラウンジは、ざわめき出した。

 「ちょっとくらい足開いたからって、いい気になるんじゃないわよ!こんな金持ちの美人を前に、恥を知りなさい!」
 まずアンタが知っといたほうがいいよ、というお話だが、和枝はけっこう叫んだ。

 「和枝!みっともないわよ!」
 母親と思しき女性は、制止にかかろうとした。




 その直後、


 「それなら、殺すしかない。」


 充はジャージのポケットから、折りたたみ式のナイフを取り出した。

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