第42話:Love(+Friendship!).34





 「こけしちゃんっ…!」
 この間のちからを返せていることに、ナナはこころ打たれた。

 「ナナちゃぁん、あたしぃ、ナナちゃぁんが親友でぇ、ほんとうに嬉しいのぉぉ。」
 「それはわたしもだよ!こけしちゃん!」
 ふたりはひしと抱き合う。

 「ありがとうぅ。」
 「いや、それはほんとわたしだよ!ありがとう!こけしちゃん!」
 ナナは再び、こけしちゃんをなでなでした。

 「そしてこけしちゃん、」
 「なぁぁにぃ?」
 にっこりと返事をしたこけしちゃんに、ナナが言いたかったことは、

 きっと醐留権先生ものすごく心配してるから、連絡してみたほうがいいよ?

 でした。



 しかし言葉にするまえ、

 〜♪〜♪

 こけしちゃんの携帯が、着信を告げた。




 「ゾーラ先生ぇだぁぁ。」
 おそらく個別着信設定のため、こけしちゃんはすぐに頬を赤らめて、

 「ナナちゃぁん、出るからぁ、手を繋いでてほしいのぉぉ。」

 もじもじと手を差し出して、こう言いました。


 「もちろんだよ!」

 ぎゅっ

 ナナは両手で、こけしちゃんの左手を握りしめる。




 「ふぅぅ、」
 深呼吸をしたこけしちゃんは、

 通話ボタンを押した。




 耳に当て、言葉を発する前に、

 『桜葉、いまどこにいるんだ!?』

 すこし息を切らしたかのような醐留権の声が、響いたのである。


 「ゾーラ先生ぇぇ、」
 こけしちゃんは携帯をつよく握り、ナナは両手に神経を集中させる。

 『近くを探し回ったがいないし、自宅にも帰らず、どこにいるんだ!?まさか危ない事件にでも、巻き込まれたのか!?大丈夫か!?』
 心配のあまり、一気に声を張り上げた醐留権だったが、
 「ぷっっ、」
 こけしちゃんは、吹き出した。

 「あのねぇぇ、ナナちゃぁんにお土産を買ったからぁぁ、渡そうと思って、いまナナちゃぁんのお家にいるのぉ。」





 『そうだったか、桜葉はほんとうに、友達想いだな。三咲への土産だけ持って、あとは忘れてゆくなんて。』
 醐留権の声は、穏やかになってきた。

 「先生ぇ、まさかぁぁ…、」
 なにかを言いかけたこけしちゃんに、
 『安心しなさい。君の忘れ物は、私が見つけて確保した。中身と場所で、君のものだとすぐにわかったよ。』
 ちょっと笑いながら、醐留権は告げる。


 「ゾーラ先生ぇぇ、」
 こけしちゃんは、はにかむ。


 (これぞまさしく、青春だよ!)
 感動ひとしきりのナナさんですが、君も大絶賛青春中だよ。
 随分遅れてきたとか、気にしないの。



 『これから迎えに行くから、待ってなさい。』
 「うんぅ。気をつけて来てほしいのぉぉ。」
 こう言ったこけしちゃんに、

 『君がどこにも行かなければ、私は必ずそこへ行くよ。』

 はっきりと言った醐留権は、電話を切った。




 携帯を閉じたこけしちゃんは、とても嬉しそうだ。


 (醐留権先生も、いいこと言うなぁあ!)
 頷くナナよ、そこは“も”を付けて大正解だ。









 その後、ナナとこけしちゃんはしばし語らった。

 「あのね、こけしちゃん、」
 そしてナナは、いよいよ明かしたのだ。

 「わたし、薔と一緒に、暮らすことになったんだよね…、」

 と。


 パァァア

 こけしちゃんの表情は、瞬く間に明るくなった。


 「ほんとぉぉにぃ?」




 (やっぱりこけしちゃん、めちゃくちゃかわいいよーっ!)
 しみじみする、ナナ。


 「ナナちゃぁん、おめでとうぅ。いつからぁぁ?」

 この質問に、今のこの状況と親友へ想いを馳せて、

 「うん!実はもう、してるんだ!今日はね、クリーニングに出してあった制服を、取りに戻ってきたの!」

 ナナは明るく答えた。



 「それなら安心したのぉぉ。じゃあぁ、ナナちゃぁん、今度お祝いしようぅ。」
 にっこりと笑ったこけしちゃんは、

 「近いうちに、パイデリア行こうねぇぇ。」

 とお誘いしました。



 ……ぱい?


 「こけしちゃん、“ぱいでりあ”って、なに?」
 「ファミレスだよぉ。」

 …おおお!
 “ふぁみれす”ってのは、今流行りのゲームのことだよね!?


 「行こう!こけしちゃん!めくるめくファンタジーの世界へ!」
 「エヘヘぇ。」

 ふたりは熱く、手を取り合った。


 ナナさん、せっかく覚えていても、履き違えちゃってたね。
 パイデリアについては、なんだかごめん、だったね。




 ちなみにこけしちゃんはちゃんと、マイバッグのなかにナナへのお土産は忍ばせていたようだ。

 なんだかばつが悪そうに手渡されたそれは、



 ちっさめの、同人誌だった。



 ナナさんのお愉しみが、またまた増えた。




 借りていた同人誌については、いま手元にないのでもうすこし借りることとなったのでした。

 そこはこう言ったんだよ?

 まだ読んでないんだ、ってね!

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