第42話:Love(+Friendship!).34





 こけしちゃんはこの日、コミケに参加したんです。

 この物語においての夏コミは、お盆とは限らなかったんです。





 あまりにも楽しみだったため、醐留権へも報告をしたのだが、それを聞いた彼は送り迎えを願い出たのだ。
 こけしちゃんは遠慮したが、実のところはやっぱり嬉しいので、送迎ベンツをしてもらうことと相成った。


 行きはとても楽しく、いろんなお話をしながら現地へと向かった。




 問題は、帰りだった。

 けっこう買い込んだこけしちゃんは、約束の時間よりすこし早くに、待ち合わせの場所へと足を運んだのだ。


 そこには、真っ白な、高級車が停まっていた。


 別になんてことなく、醐留権を待とうとしたこけしちゃんだったが、

 ウィィ――――…

 ふと、白高級車の窓が開いて、なかから声を掛けられたのだ。


 「あなた、桜葉さんね?」



 キョトンとして見ると、めちゃくちゃ大人な女性がこけしちゃんを見ており。

 「はいぃ、そぉぉですぅ。」
 控えめに答えたこけしちゃんへと、

 「早く来てくれて、良かったわ。」

 にこっと笑うと、その女性は言ったのです。


 「要は私と結婚するから、邪魔をしないでほしいの。」

 と。




 「えぇ…?」
 こけしちゃんは、下げていた荷物を落としていた。

 「今日だって本当はね、私との先約があったのよ?大人の事情を、むやみにかき回さないでね。」
 笑いながら言った女性は、

 「要は来れないけど、乗ってく?」

 こう尋ねた。



 「いえぇ、大丈夫ですぅぅ。」
 こけしちゃんはにっこり微笑むと、荷物も拾わずに歩き出した。

 「あ!ちょっと!忘れ物!」
 女性は叫んでいたが、まったくこけしちゃんには聞こえていなかった。



 暑いのに、こんなにも冷たい。

 「…グスッ、」

 やがて泣き出したこけしちゃんは、買い込んだものすべてを置き忘れ、一時間以上もの道のりを歩いて帰ってきたのだった。












 グッ…

 ナナは拳を固める。

 「ゾーラ先生ぇはねぇぇ、あたしのぉ、初恋だったのぉぉ。」

 想い出してしまったこけしちゃんは、再び肩をふるわせ出した。


 「でもぉ、やっぱりぃぃ、先生ぇと生徒ぉなんてぇ、叶わないぃ恋なんだよぉぉ。」
 俯き、ポタポタと涙をこぼすこけしちゃん。


 ナナは膝歩きをすると、こけしちゃんの隣に座ってやさしく力強く告げた。


 「こけしちゃん、それで、諦めちゃうの?」




 「えぇ…?」
 こけしちゃんは、泣きはらした顔を上げる。

 「いや、あのね、こけしちゃんはわたしにちゃんと話してくれたから、わたしもちゃんと応えたいから言わせてもらうね。」
 そしてナナは、伝え出した。


 「本人から聞いていない言葉なんかで、諦めちゃだめなんだよ。」




 「ナナちゃぁぁん…、」
 思えば学園祭の時から、泣いているナナにこけしちゃんは寄り添うこと多かったからね。
 寄り添う、とはやはり、片方だけでは成り立たない。

 「醐留権先生には、醐留権先生のほんとうの気持ちがあるんだし、こけしちゃんにだってほんとうの気持ちがあるでしょ?伝え合ってみないと、ほんとうの気持ちはお互いにわからないまんまだよ?」
 しっかり告げたナナは、微笑んだ。

 「わたしはこないだ経験したから、よくわかるの。だからこけしちゃんの苦しみもわかるから、言いたいんだよ。踏みにじられるなんて、おかしいよ、だめだよ絶対に。」


 ぽろっ
 言い終えたナナの瞳からは、涙がこぼれ落ちた。



 「あれっ?やだなぁ、どうしたんだろ?」
 ゴシゴシ、

 「ナナちゃぁん、」

 涙を懸命に拭ったナナのまえ、こけしちゃんはニコニコしていた。


 「ありがとうぅ。すごぉぉく、説得力があったのぉ。」

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