第40話:Love(&Lives).33
「すごいよ〜!夕月さん、すごすぎるよ!」
リビングにて、ナナは大興奮である。
夕月は、その才能や人脈を存分に生かし、様々な事業に取り組んでいた。
なかでも注目されているのが、最近立ち上げられた、モデルを中心とした音楽プロジェクトで、
『このプロジェクトは、』
テレビのナレーションは、こう言ったのでした。
『亡き妻・美咲さんの夢でもあり、夕月にとっては、とても思い入れの深いものなのです。』
…――亡き妻・“美咲”さんの――――――…
ガシャン―――――…
キッチンにて、なにかが落ちた。
茫然としてしまっていたナナは、ゆっくりと振り向く。
同じく、茫然としている薔も、テレビを見つめていた。
「…聞いてねーぞ、」
ナナには、合点のいった部分がある。
(だから夕月さんは、あのとき、あんなにも深い目をしたんだよ…)
「あの……、」
なにかを言いかけた、彼女に、
「ナナ、」
ちゃんと見つめて、薔は言った。
「俺は、出掛けてくる。」
と。
「わかりました、お気をつけて。」
ナナはしっかりと、頷く。
「飯なら出来てる、おまえは花子と待ってろ。」
力強く告げた薔は、支度をしに奥へと向かったと思ったら、
バタン――――――…
ほどなくして出掛けていった。
ナナは花子と、キッチンへ向かってから、
「えええええ!?こんなすごいの、ほんとうに作ったんですかぁーっ!?」
びっくり仰天した。
「ワン!」
花子は、前脚でぴょんと跳ねたのだった。
――――――――…
「しかし、綺麗な薔薇だなぁ。」
そう言って笑う夕月は、オフィスでコーヒーを飲んでいた。
缶のを飲むのは止めたため、自身で煎れたものである。
「棘のある薔薇は、うつくしいよな、」
クックッと笑っている夕月のオフィスの、階下にて。
(わあ!突然、ものすごい美少年が訪ねてきた!)
受付の県は、かなりどきまぎしていた。
「あの、申し訳ございませんが、夕月は本日パリへと発ちますので、時間は取れないかと、」
そして、目の前のその美少年に恐る恐る告げた瞬間、
「その子でしたら、時間はありますよ。」
穏やかな声で県にそう言ったのは、
「如月さん!」
夕月の、専属運転手こと・如月であった。
何事かと思っている県のまえ、
「お久しぶりです。」
美少年はあたまを下げる。
「いやいや、立派になられましたね!どうぞ、こちらへ、」
嬉しそうに笑う如月は、彼を上の階へと案内していった。
「え?パリには、間に合うんですか?」
目をぱちくりさせる県に、
「ぎゃあ!いまの、薔くんじゃない!?」
遅れてきたもうひとりの受付嬢が、声を掛けた。
「えええ!?どうりで、めっちゃ美形だと思いました!」
「県、天然すぎるよ!見た瞬間に、気付こうよ!」
このやりとりのあと、席に着いたもうひとりの受付嬢(名前…)は、
「あああ〜、今日に限って、来る途中車がオーバーヒートしたからなぁ。あたしも薔くんと、お話したかったぁ。」
溜め息混じりに言ったのだが、
「オーバーヒートって、荻巻(おぎまき)さん、メンテナンスはちゃんとなさってるんですか!?」
県は、驚愕していた。
「してるわよ〜。車検のときに、ちゃんと。」
「それだけでは、お車が気の毒です!」
えー、荻巻って、ちゃんと明かされたんだが、もうつぎの場面にね、切り替わっちゃうんだよね。
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