第40話:Love(&Lives).33
…――真っ暗な、夢のなかにいました。
なにも見えない夢のなかを、手探りでナナは歩いている。
この暗闇は、いったい、どこなのか?
どこへ行くのか?
ふと、
恐る恐る手を伸ばしている彼女の目の前に、ぼんやりとした光が見えてきた。
近づくにつれ、その光のなかに、あるシルエットを見つける。
あれは―――――…
写真で見たことがある、わかるよ、あなたは、
幼き日の、薔、だよね。
彼はぼうっとした光のなか、ただ、暗闇を見つめている。
横顔、すべてが、かなしくて。
『薔っ!』
ナナは、声の限りにその名を呼んだ。
声のした方へと顔を向けたが、ナナの姿はどうやら見えていない様子で、つぎに違う方向を見て彼はぽつりと言った。
『…だれ?』
ここです!わたしです、ナナですよ!、そう叫ぼうとした瞬間、
ザァ―――――…
光すら、闇へと変わりだしたのだ。
まだ小さなからだの薔は、どんどん、闇に呑み込まれてゆく。
『待って!そのひとを、連れてかないで!!』
ナナは走った。
夢のなか、すぐそばへと必死で走るが、おそろしく長く感じられた。
『薔っ、はやく、この手を!!』
それでも、腕が千切れるほどに伸ばすナナへと、薔は手を伸ばす。
闇に呑まれるまえ、確かに、その手をしっかり掴んだ、ナナ。
手のひらに、すっぽりとおさまってしまうほどの、柔らかくて小さな手を。
…――よかった、いまは、ちゃんと、この手を差し伸べることができた。
雨ではなく、闇のなかでも。
サァア―――――…
闇は、逃げていった。
光へと、移り変わる。
そして、
『あぁ、ナナ、』
ちゃんと彼女の名前を呼んだ薔は、いまの姿に成っていた。
『そうです!ナナです!』
ナナは笑ったが、泣いているようにも想えた。
手の感触も戻っていたが、あの手に触れたことを、わたしはちゃんと覚えておこう。
夢から覚めても。
『おまえが、いるな、』
そう言って、薔は、笑った。
そのとき、目が覚めたのだった。
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