第38話:Game(is Over?).32
走りつづけていたベンツの外は、ひどく懐かしい景色へと変わっていて、
「ここで降ろしてくれ。」
突然、薔が言ったので、よくよく見ると、学校の前だった。
横付けしたベンツから、薔とナナだけ降りる。
「ありがとう!こけしちゃん!醐留権先生!」
「ありがとな、」
「いえいえぇ。気をつけて、帰ってねぇぇ。」
「では、また。」
ふたつの世界が混じり合って、ふたつの世界はふたりの世界になった。
走り去ってゆくベンツからこけしちゃんは手を振っていて、
「またねーっ!」
ナナも、手を振り続けた。
ベンツが見えなくなってから、
「行くぞ。」
薔と手を繋いで、ナナは歩きだす。
マンションへ帰るのではなく、ふたりは学校の門をくぐり抜けていった。
「あれ?」
グラウンドでバットを振ろうとしていた、小麦色の黒熊くんが、ふたりに気づいたようだ。
「お久しぶりに、薔さまを拝見いたしま」
「ストラ〜イク!バッターアウト〜!」
………ああっ!
「黒熊ぁ、努力は認めるが、三振多いぞ!」
腕を組んでこう言ったのは、野球部の顧問、千国(ちくに)先生である。
「い、いや、いま、あの、そこを、とあるカップルが、」
「ボール、頭に当たったのかぁ?」
………ぇえ!?
「いえ!わたくし、黒熊 幸明、ボールはどこにも、かすってすらおりません!」
「なら、安心したわぁ。」
野球部の練習は、再開された。
ちなみに千国先生には、ジャワ原人だという噂がある。
ふたりは、プールサイドにおりました。
水泳部はすでに練習を終えていたので、ほかにはだれもおりません。
ゆらゆらと、揺れる水面が、光を反射してキラキラと輝く。
「おまえ、バッグよこせ。」
ふいに薔が言ったので、
「あ、はい、」
ナナは彼に、下げていた鞄を手渡しました。
やさしく受け取って、それを日陰に置くと、そのうえに自身の携帯も置いた、薔。
は、
グイッ――――…
つよくナナの手を引くと、
「えっ?あの、」
ザバ―――ン…!
共に、プールへと飛び込んだ。
(おわぁあっ!)
水中でびっくり仰天したナナは、カナヅチである。
「ぶはあっ!」
一緒に浮かび上がって、深く息をする、ナナ。
「やっ、あの、わたし、泳げません!」
必死で薔へと、しがみつくと、
「ナナ、」
抱きしめて、耳もとで、やさしく彼は言いました。
「大好きだよ。」
ぶわっ
愛おしさがこみ上げて、泳げなくても平気だった。
太陽が、眩しいくらいに反射する水のなかで、熱く濡れて、抱き合っている。
そして、薔は、つづけたのでした。
「はじめから、ゲームなんかじゃ、なかったよ。」
「え―――――…?」
ナナの手には、ちからがこもる。
「ずっと、好きで、仕方なかった、」
薔は、告白を、つづけます。
「ただ、そばにいてほしくて、ゲームだと言ったんだ。」
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