第38話:Game(is Over?).32
ナナは、やたらドキドキしていた。
(わぁあ!ちょっと遠いけど、あのひと、めちゃくちゃかっこいいよ!)
そんななか、最上はなにかを喋っていたが、ナナと薔はあまり、聞いていなかった。
そしてついに、
『では、薔くんにもお話を伺いましょう!』
と言って、薔にもマイクが渡されました。
ゴクリ…
けっこうな勢いで、みんな息をのむ。
そして、薔は堂々と言ったのでした。
『まず、ソイツはだれだ?』
「えぇっ?」
話と違うので、最上と社長は目を見開く。
会場、世間は、唖然としている。
しかし、薔は、立派につづけました。
『言っておくが、俺は、女見る目、ちゃんとあんだよ。』
「ななな………!?」
慌てる最上と社長だが、会場はかなりどや顔をしている。
『なぁ、ナナ、』
さらに、薔は、つづけます。
『おまえ、ここに来いよ。』
え?だれ?
まわりがキョロキョロするなか、ナナは動けずにいた。
そのとき、
「あのブス、まだいたの!?」
最上が叫んだのだ。
(え――――…?)
ナナは、唖然とした。
『おい、』
厳しい目つきの薔のまえ、最上は、(しまった!)と思った。
「…………………。」
みんな、黙っている。
「ちょっと!これ、いったんCM入れよう!」
主調整室は、ざわめきだした。
その瞬間、
「はっ、」
ハスキーヴォイスが、場を貫いたのだった。
「最上、それ、鏡でも見て言ってんのか?」
カメラが回り続けるなか、いっせいに視線を送ったさきでは、夕月が笑っていて、
「ブッサイクな言葉だなぁ、おい。」
彼は、はっきりと、言い放ちました。
隣の夕月を見上げているナナは、
(このおかたは、ほんとうに、神様だよ。)
ものすごく、感動しております。
ずっとそちらを見ていた薔は、
フッ――…
穏やかな表情になった。
カタ
そのまま、彼は立ち上がって、ナナに向かって堂々と歩いていきました。
「………………、」
かたずをのむ、そのなかで、
「来てやったが?」
ついにふたりは、向かい合っていて、
クイッ――…
唖然と座りつくしているナナを、薔は抱き上げました。
「戻るか、」
この言葉の直後、
ちゅっ
やさしく短く、キスは落とされて、
「ほら、行くぞ。」
「は、はい…、」
手を繋いだふたりは、会場を走り去った。
「やったよ――――――――――――っ!!!!!!」
テレビやら大画面やらのまえで、手を叩いて喜んだ人々は、けっこうおった。
彼らは、歓喜に満ちた。
その直後、
『いったん、コマーシャルです!』
CMが、はさまれた。
「追えーっ!」
後を追いかけようとした、マスコミだの何だのだったが、
ガチャ――――…
出入り口のドアは、閉められました。
「えええ!?」
ドアを閉めたのは、
「なんだ?いたのか、」
「只今、まいりました。」
なんと、あの、がたいのよい夕月の専属運転手であった。
「野暮もたいがいにしろよ?」
そして、夕月の有無を言わせぬ目つきにより、
「う…………」
会場は、いったん静かになった。
「ちょっとーっ!あたし、ひどいこと言われたーっ!」
最上はわめいている。
そこへゆっくりと、夕月は歩いていった。
「なんなのよもう!」
怒り狂っている最上は、
「おい、」
ハスキーヴォイスが響いて、顔をあげる。
「夕月さま……、」
同情をしてもらいたいがため、最上はまたしても猫かぶりモードに入った。
「ねぇ、最上 佐江子って、どうして夕月さんには逆らえないの?」
先ほどの椅子の件もあるので、不思議に思った記者が別の者へと尋ねる。
「知らないの?最上はね、あんだけ売れて大活躍していても、夕月さん主催のオーディションにはすべて落ちているのよ。声が掛かったことすらないの。」
「そうなんだ……!」
そんな最上は、今、夕月に声を掛けられていた。
「お前は、ほんとうにひどいことを言われたのか?」
席に座っている最上へと、夕月が放った言葉はこうだった。
「ほんとのことしか、言われてねーぜ?ひどいことってのはな、お前が普段、言ってることを指すんだ。」
「あたしは、なにも、」
言葉に詰まる、最上。
「いくら売れていても、お前に興味が無えのはそのためだ。」
やがて、夕月は諭すように語りだした。
「うつくしさってのはな、押し付けるモンじゃねえ。それによって、相手を、支配するモンだ。」
「………………、」
最上は、黙っている。
「押し付けでしかないお前の美なん、すぐに廃れる。」
夕月は、つづける。
「俺はな、ここまで来るのに、何度か道を外した。だが、ちゃんと戻れたからこそ、ここにいる。それは俺が、俺自身すら、支配できたからだ。」
やがて夕月は、最上に背を向けた。
「支配の意味がわからねえなら、辞書を引くんだな。載ってることすら理解できねーようじゃ、いつまで経ってもお前を、採用することはない。」
そして立派に、歩いていったのでした。
「そんな……、」
最上は俯いたが、
テレビ局には電話が殺到し、最上のアミーバブログ(なんだかごめん)などは、炎上すること必至である。
再開もできず、番組は打ち切られました。
会場を出てゆくとき、さり気なく夕月には拍手が送られた。
「ちゃんと、振り切れましたかね!?」
夕月と並んで歩く運転手は、興奮気味である。
「外なら、心配いらねーだろ。」
こう答えた夕月は、
「なぁ、如月(きさらぎ)、」
ふっと、専属運転手こと如月に、言いました。
「あの子の女、三咲 ナナってんだ。」
と。
「え?それは、ほんとうですか?」
如月は、目を見開く。
「あぁ。偶然にしちゃ、すげーよな。まるで、“あいつ”を見ているようだった。」
ひどく懐かしそうに告げた夕月は、心なしか、泣きそうなほど穏やかな表情をしていた。
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