第38話:Game(is Over?).32





 ナナは、一足先に、会場へ行っていた。

 薔は、打ち合わせだかに、行っていた。


 だが、もうなにも、心配はしていなかった。



 案内された席に、ちょこんと座る、ナナ。
 席は、出入り口に最も近い、後ろの一番左に用意されていた。


 まわりには、けっこうな関係者たちが、集まってきている。


 「しっかし、最上は、いつも自分勝手だよなぁ。」
 「ほんっと、売れてるからって、天狗にもほどがあるよ。」

 …………てんぐ?

 確か、鼻が長い赤い人のことですよね?とか思っているナナは、ちょっとだけ、どや顔をした。




 そんなとき、


 ドカッ


 隣の席に、やたらダンディーなジェントルメンが腰掛けたのだ。





 (おおおっ?)

 洗練された雰囲気の凄さに圧倒されたナナは、凝り固まる。


 「……………、」

 なんだかジェントルメンは、隣からナナを見つめている。


 (なぜにわたしは、見つめられてるのだぁ!?)

 パイプ椅子に座ったナナは、膝のうえで拳を固めて、ちょっと俯いた。



 すると、

 「君の彼氏は、激しいんだな。」

 ジェントルメンが、言いました。



 「はい……?」

 ナナは顔をあげる。


 「とりあえず今は、これでも巻いてなさい。」

 そんな彼女の首に、ハスキーヴォイスの男性は自信のストールを巻きつけた。

 いい匂いがしている。



 よくよく思い出してみると、窓際での戯れで、けっこうなキスマークをつけられていた。



 ……かあぁぁあっ!


 ナナは、真っ赤っかになる。





 (なかなか、初々しい子だな。)
 387歳のナナに対して、夕月が抱いた第一印象は、こうだった。


 ナナは真っ赤で俯いていたが、

 コロコロ…

 ふと、隣を歩いていった、記者だかのボールペンが、彼女の足元に転がってきたのだ。



 すぐにそれを拾い上げて、

 「あ、あの…、」

 落とし主へと駆け寄る、ナナ。


 「はい?」
 振り向いた記者だかに、
 「これ、落としましたよ?」
 ナナはボールペンを手渡す。


 「ボールペンなん、いっぱいあるからわざわざよかっ」
 言いかけた記者だかは、


 ギロッ


 後ろの夕月に、激しく睨みつけられた。



 ……ひえぇえ!



 「わぁあ!ほんとうに、ありがとうございます!大切なボールペンだったんです!」

 青ざめた落とし主は、冷や汗をかいて、深々と頭を下げてから歩いていった。




 (なんか、様子がヘンだったな…、)
 首を傾げてから、ナナは席に着く。


 すると、

 「君、名前は?」

 すかさず、隣のジェントルメンに名前を聞かれた。


 びくびくぅ……!

 びっくり驚いたナナは、


 「あの、“三咲 ナナ”です……。」

 やたらかしこまって、答える。




 「は―――――…?」

 すると、ジェントルメンは、一瞬とても深い瞳を放った。



 (あれ……?)
 どぎまぎする、ナナ。


 「そう、か、」
 しかし、すぐにジェントルメンはもとの虹彩に戻って、


 「俺は、夕月 鎧だ。」


 と、名乗りました。



 「えええっ!?」

 驚愕のナナの大声は、けっこう響いた。



 んでもって、


 「か、神様…!」


 目を輝かせた彼女は、声を振り絞ったのです。



 「は?」

 夕月は、はてなマークを浮かべている。


 それでも、瞳をうるうるさせまくったナナは、


 「ああありがとうございます!神様!あのひとを助けてくださって、感謝してもしきれません!」


 拝み始めた。




 「はっはっは!こりゃ傑作だ!」

 突然、腹を抱えて笑いだした夕月。



 「はい?」
 ナナは手を合わせたまんま、キョトンとする。



 そして夕月は、笑いながら言いました。




 「気に入った!君なら、喜んで娘にしてやろう!」






 ………む・す・め?

 口を半開きにして、真っ赤になるナナの隣、夕月は笑い続けている。


 (これは、スクープの予感!)
 まわりはそれとなく、震撼していた。

[ 425/550 ]

[前へ] [次へ]

[ページを選ぶ]

[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]


戻る