第38話:Game(is Over?).32





 その頃。

 突然の記者会見に、スタッフ達はあたふたしていた。

 会場準備に、必死である。


 「いやぁ、もう、最上 佐江子の傲慢ぶりには、手を焼ききれないね。」

 こう言いながら、肩に掛けたタオルで汗を拭っていた男性スタッフに、


 「おい、」


 大人びたハスキーヴォイスが、声を掛けた。




 …………はい?

 手を止めて、声のした方へ顔を向けると、

 「えええええ!?ゆ、夕月さん!?」

 スーツをラフに着こなした、夕月が立っていたのだ。

 ちなみに、なんだかオシャレなストールなんかも、巻いちゃってます。



 「お疲れさまです!いつ、日本に戻ってらしたんですか!?」
 スタッフは、かしこまりまくって、頭を下げた。


 「一昨日だ。」
 軽く手を上げて言った夕月は、

 「お前らは、くだらねぇことにも精を出すなぁ。」

 クックッと、笑っている。




 「は、はぁ、ありがとうございます…」
 労いの言葉と受け取ったスタッフは、とりあえず礼を述べた。



 しかし、


 「悪りぃが、この会見は、ナシだ。」


 真剣な表情になって、夕月は言い放ったのだ。




 「えええ!?聞いてませんけどぉ!」
 男性スタッフと、聞こえたまわりも仰天する。

 「言ってねーからな。」
 別に何てことなく、夕月は威風堂々としている。


 「だってもう、ここまで準備しちゃってますし、」
 「それはご苦労な話だが、言ってみれば共同犯罪だぜ?」

 ………えっ!?

 そうなの!?


 「まぁ、今のうちに、止めることだな。」

 と言った夕月の目に、

 「ん?」

 隅っこで身を潜めている、丸椅子が留まった。




 「これは、なんだ?」
 「あ、そちらは、ひとり女の子の出席が追加されたので、緊急で用意したんです。」

 スタッフが控えめに伝えると、

 「そうか、」

 夕月は、なにかを、こころにも留めた。



 そして、

 「悪かったな、予定通り、会見は行ってくれ。」

 と、笑ったのだ。



 「あ、ありがとうございます…」
 スタッフは胸をなで下ろし、
 「だがな、」
 付け足す、夕月。


 「こんな丸椅子じゃ、だめだ。ちゃんとしたのを用意しろ。」




 「えええ!?間に合いませんよぉ!」
 「あ?お前らは、最も大切な人物に、こんなんで対応すんのか?」

 夕月に睨まれたスタッフたちは、青ざめた。



 「いえ、今日に限って、局内の椅子は丸椅子しか余っておらず…、」
 「なら、最上の椅子と取っ替えろ。」

 ……ぇぇぇぇええ!?

 「そんなことしたら、文句がハンパないで」
 「なぁ、」

 夕月の眼力のほうが、果てしなくハンパなかった。



 「俺はこれでも、控えめに指示出してやってんだ、文句言えるヤツがいたら、今ここで言わせろよ。」





 「すみません…、大至急、お取り替えいたします……」
 スタッフ達は、冷や汗をかいており。


 「俺も出るから、その子は俺の隣に座らせろよ?」
 やさしくなった眼差しで、夕月は指示をつづけます。


 「かしこまり、ました。」
 ぺこりと頭を下げた彼らに、


 「俺の椅子は、最上んとこの社長のでいいからな。それから、出口に近いとこへ、ふたつ用意しとけよ?」

 笑って言った夕月は、手を振りいったんスタジオを出ていった。




 「こうしちゃいられん!」

 すぐにスタッフ達は、言われた通りに準備を再開したのだった。

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