第38話:Game(is Over?).32
「そう言えば、お迎えなしということは、どうやって行くんですか?」
薔にこう尋ねたナナは、食卓で彼と向かい合って、自分で作ったわけではない手料理を美味しく食べております。
「ちゃんとした迎えなら、すでに来てるぞ?」
すると、服を着た薔は、目の前で堂々とこう答えました。
……………はい?
ナナには意味不明であるが、
「外、見てみろ。」
と言われたので、しっかり食べ終えていた彼女は、ベランダに向かったのでした。
「…、なんか、真っ黒な車が、停まってる……」
マンションのまえに、黒塗りのベンツが停まっております。
何事かと思い、身を乗り出したナナの目には、
「ナナちゃぁん。」
ベンツから身を乗り出して、ニコニコと手を振るこけしちゃんの姿が映った。
「こけしちゃーん!」
テンション上がったナナは、さらに身を乗り出して手を振り返す。
「危ねぇな。」
そんな彼女を後ろから抱き寄せて、耳もとで薔は囁いた。
「んあ…っ、」
くすぐったさに、ふるえるナナ。
つよく、後ろから抱きしめて、
「な?ちゃんと、来てたろ?」
耳もとでのまんま、囁きかける薔。
「あ、はい…、」
ベランダで、この状態で、ナナはかなり、朝から火照ってしまったのでした。
「なんだかぁ、ふたりの世界に、入っちゃったのぉぉ。」
ベンツの車内に戻ったこけしちゃんは、にっこにこである。
「私たちも、ふたりの世界に入るかい?」
運転席で、こう尋ねた醐留権に、
「入りたいのはやまやまだけどぉ、あたし達まで入ったら、遅刻しちゃうのぉ。」
ほっぺたに手を当てたこけしちゃんは、おっとりとはにかんだ。
「桜葉、君はなかなか、しっかり者だね。」
「エヘヘぇ。」
すでにこちらも入りかけているように、思えてならない。
そして、きちんと支度をしたナナと薔が、手を繋いでマンションを出てきました。
いよいよ、性悪なラスボスだかと、対決かも!
(おわぁあ!ベンツって、乗り心地がいいよぉ!)
ナナは、こころではしゃいでおります。
「ゾーラ先生はぁ、運転テクが最高なのぉぉ。」
「そうかい?」
そんでもって、前方の席で、こけしちゃんと醐留権は、なんだかラブラブしております。
(わぁあ!こけしちゃん、醐留権先生となんだかいいムードで、わたしは嬉しいよぉ!)
ナナは、こころでほろりとする。
そのとき、
……………はっ!!
とした。
恐る恐る隣を見ると、
「……………、」
シートにふんぞり返っている薔は、もんのすごく不機嫌そうにナナを見ていた。
(ぎゃあ――――――――――――っ!!)
「どうなさいましたぁ!?」
「おまえ、ひとりの世界に入ってんじゃねーよ。」
……えええ!?
「では、この微笑ましさを、分かち合いましょう!」
「あぁ。」
このやりとりの直後、
クイッ――…
ナナの頬を挟み込んだ薔は、ものすごく急接近した。
「どんなんだ?」
「ちちちち近いですって、おカオーっ!」
今に始まったことでは、毛頭ない。
「あはは。後ろもいいカンジだね。」
「そぉぉなのぉ。」
ベンツの車内には、愛が充満しております。
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