※第37話:Game(from Back).31





 「え?うしろ?」
 「そうだ。」

 キョトンとしたナナは、頬をそっと撫でられております。


 「やってみろ。」

 んでもって、そのままナナを抱いてすこし持ち上げると、薔は互いの位置を入れ替えた。




 月明かり、逆光が、白いシャツを照らし出す。


 「まずは、シャツのボタン、外せ。」

 掛けられている方が少ない程なのだが、この言葉に従ったナナはゆっくりと薔のシャツの、ボタンを外していった。


 ファサ――――…

 すぐに全部外し終えて、うつくしいカラダがシャツの間から覗く。


 ゴク…

 ナナは、息をのむ。



 スッ――――…

 そして、ゆっくりと薔は彼女に背中を向けて、窓にカラダを押し当てた。


 「ほら、脱がせろ。」






 「でも、こんなとこ、見られちゃいますよ?」
 「大丈夫だ。月以外は見てねーよ。」

 ………ええっ?


 「で、でも…、」

 オロオロだか、する、ナナですがね。



 「なぁ、ナナ…、」

 窓にカラダを押し当てたまんま、すこしだけ振り向いて手を押し上げて、



 「こんなこと、おまえにしか、させねぇぞ?」




 とんでもなく色っぽい薔は、囁きかけたのでした。






 理性が吹き飛ぶには、じゅうぶんだった。


 シュ――――…

 ナナは、両手を薔の痩せた肩に置いて、シャツを滑り落とす。
 すべて落ちるまえ、細くくびれた腰のあたりでシャツは止まった。



 月明かりが、ほんのりと、白く肌を照らし出す。


 ツ――――…


 ナナは、薔の背中の筋に、手を当てて撫で始める。


 「あ…………」


 シャツが隠していない部分を、全体的に撫でまわすように。




 チュ、

 何度か、うつくしく骨ばった肩にキスを落とす。

 「ん…………」

 窓に当てた両手を、ゆっくりと薔は上へ伝わせてゆく。




 肘からうえは上げていないので、ナナは彼の肩に抱きつくと左の首もとに背後からガブリと噛みついた。


 「は…あ……っ、」

 顔を上向きにした薔の肩から、鮮やかな血は流れ落ちてゆく。
 ほとんど脱げたシャツが、ところどころ、あかく染まって。


 指輪は外されていたため、けっこう深くへと牙は食い込んだ。



 「あぁ―――――――…」

 胸元を窓に押し当ててカラダを反らす薔は、堪えきれないような声を出せぬまま振り絞る。



 「あ…ぁっ、ナナ………」

 上に向いた顔、長い睫毛は月光を浴びて煌めき、切なく甘い声が名前を呼ぶ、譫言みたいに、でも確かに。



 「………は…あっ、」

 くちびるが、ガラスを這うように落ちて、


 「はぁっ…………はぁっ………………」


 額を窓に当てながら、薔は深い息を吐いていた。

 血液は、なめらかな肌を真っ赤に伝い落ちる。




 「薔、痛い?」

 すっと牙を抜いたナナは、彼の腕を撫でて尋ねた。

 「ん…、大丈夫だ……、」

 左肩をわずかに上げて、窓にゆびを当てながら薔はすこしだけ振り向き、応える。


 その間も血は流れ落ちるので、零すまいとしたナナは背中を舐め上げていった。


 「ぁ…あ……っ、」

 再び窓に向いて、薔はカラダを反らす。



 「はぁっ…、はぁっ…、ぁ……はぁ…っ、」

 淫れた吐息が、窓を白く、曇らせて。


 「あ…ぁ――――――…」



 くちびるで、からだで、ゆびさきで触れられている窓が、羨ましいと、ナナは思ってしまった。



 スッ――…

 なので彼女は、とっさに両手を伸ばしていて、

 くいっ

 薔の顔を横に向けると、つまさきで立ちながらやわらかく包み込むように、くちづけていた。


 「ん…………」

 甘い声を鼻の奥で出して、薔はキスに応える。

 きれいに飲んでいたため、血の味はほとんどしなかった。


 ちゅっ

 何度か、リップ音が艶やかに立って、くちびるをやさしく絡めあう。



 「はぁ――――――…」

 舌は入れないまま、やがて張りついたくちびるを離した。



 「……積極的だな、」

 ナナに視線を向けて、クスッと笑った薔の肩から、覗く月は彼女を照らし出す。




 「嬉しいよ、ナナ…」






 …――いま、照らされているわたしは、


 月なのか?

 太陽なのか?




 どちらにしても、この光は、確かにあなたから注いでいます。

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