※第37話:Game(from Back).31





 「え――――…?」

 ナナは、薔を見上げる。


 沖里は、またしても黙っている。


 「他はもういい。」
 静かに言った薔は、


 「こいつにだけは、ちゃんと償え。いいな?」


 有無を言わせぬ声で、堂々と言い放った。



 「わ、わかったよ。」
 頷く、沖里。


 「あの…、」
 ナナは、“わたしはいいですので”、そう言おうとした。


 それを遮って、

 「なら、今日は、こいつの席も用意させろ。」

 薔は命じました。



 「え…………?」
 沖里は目を見開いて、ナナは無言でいる。
 ちなみに日付は、もうとっくに変わっている。



 「派手に片付けてやるよ、俺とこいつで。」


 ようやく、かな?

 いつも通り、不敵な笑みで、薔はナナの手を取った。



 (おわぁあ!よかったよぉ!)
 ナナは、歓喜に満ちる。


 「わかった、僕に、任せてくれ。」
 沖里は、深く頷く。


 「迎えならちゃんと」
 「それはいらねぇ。」

 迎え来るより、ふたりで行ったほうがいいからだよねぇ、きっと。



 「で、では、これから、僕は色々と手配をするよ。」

 すこし冷や汗をかく沖里は、去り際に、



 「長く忘れていたものを、思い出せた。君たちのおかげだ、ありがとう。」


 そのまま深く頭を垂れ、言葉を置いていったのだった。








 「……………、」
 ナナは無言で、見送っていた。


 「ナナ、」

 ドキッ!

 そして、やさしく薔に名前を呼ばれた。


 「は、はい、」
 やたらドキドキしているので、視線を送って彼に応える。


 「あの番組、見たんだな?」
 そう問いかける薔は、ナナの頬にゆびさきで触れている。

 「なぜに、おわかりに?」
 「それくらい、おまえを見ればわかる。」

 信じられているので、もう怖くはないナナだったが、

 ギュ―――…

 マンションの入り口で、つよく抱きしめられた。



 「あ、あの……、」
 こんなにも加速する鼓動が、伝わってしまうほど密着して。


 「もう、なにも心配すんな。俺にはずっと、おまえだけだ、ナナ。」

 やわらかくナナの髪を、抱きしめたまま撫でて、耳もとで薔は力強く告げたのでした。









 ガチャ――――…

 昇りつめた、薔の部屋にて。


 玄関で抱き合う間もなく、

 「ワン!」

 花子が、お出迎えをしてくれた。



 「花子ちゃーん!」
 ナナは、テンションが上がっていた。
 上がっていたところへ持ってきての、花子のお出迎えだった。


 「ただいま、花子。」
 薔は花子のあたまをやさしくなでなでしており、つぶらな瞳でご主人さまを見上げる花子は嬉しそうに尻尾を振っております。

 「花子ちゃん、会いたかったよーっ!」
 ナナもうるうると、花子のあたまをなでなでし始めたのだが、

 「おい、おまえは、花子を撫でてんのか?俺の手を撫でてんのか?」
 「えええ!?」

 ふたりして撫でているので複雑な状況だかになって、花子は気持ちよさそうに目をトロンとさせていた。

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