※※第36話:Make Love(Climax).4






 沖里は、ちからなく帰宅していた。


 リビングには煌々と、明かりが灯っている。



 ガチャ――――…

 ゆっくりドアを開けると、妻はまだエプロンをつけており、ソファに座って真剣に幾つかの写真を眺めていた。


 「おかえりなさい。」

 にっこりと、妻は微笑む。


 「ただいま、」
 沖里も微笑み返したのだが、
 「あなた疲れてるみたいね、大丈夫?」
 心配そうに、妻は尋ねた。


 「あ、ああ、」
 思わず俯いた沖里に、


 「ねぇ、あなた、」


 妻は言った。



 「この子、あの公園にいた時のような表情は、ちっとも見せないのね。」


 と。




 「え………?」
 沖里が妻を見ると、彼女は写真へと向いていて、

 「全部とってもいい写真だけど、あなたが公園で撮ったあのときの表情が、一番良かったわ。」

 そう言うと夫へ向き直って、

 「やっぱりあなた、事務所持つより、カメラマンの方が向いてるわよ。」

 クスッと、笑った。




 ドサッ―――――…

 突然、沖里は抱えていたバッグを落とした。

 「ごめんなさい!私ったら、余計なことを、」
 そして慌てる妻に、

 「違うんだ。」

 ぼーっと、沖里は告げる。



 「変わってしまったのは、僕だったんだ。」





 …――そうだ、

 あの公園で、彼女と一緒にいた彼を見て、

 すぐに昔の姿を、重ねられたじゃないか。






 「どうかしてたよ。」
 うずくまった沖里に、

 「大丈夫?」
 妻は駆け寄る。


 「綾子、僕は、とんでもないことをしてしまった。」
 頭を抱える夫の肩に手を置いて、妻は語りかけた。

 「あなたがどんなことをしたのか、私にはわからないけど、とんでもないことだと思うのなら、ちゃんと償うべきよ。」





 「どうやって?」
 沖里の顔はひどいものだが、
 「それは、あなたが決めること。」
 妻は、にっこり笑いかける。


 「でもね、あなたって肝心なとこでいつも詰めが甘いから、私だって、寄り添うわよ?」
 そして、夫のひどい顔を挟み込んで、

 「だから、詰めが甘くても、ちゃんとここまでこれたでしょ?」

 やさしく言い聞かせた。




 「綾子、そう言えばいつも君は、どんなに生活が苦しくても笑っていたね。」
 「だって、私が泣いたところで、あなたが困り果てるだけでしょう?それに愛が、苦しい生活の糧になったから。」


 夫婦は、抱き合った。





 「ありがとう、綾子。」
 「こちらこそ、ありがとう。」




 欲に目がくらんだときも、それ以上にひかり輝くものがあれば、きっと、導かれる。


 忘れてはいけないと言い聞かせ、背負う内に忘れてゆくより、ふとした瞬間にちゃんと思い出させてくれる、糧を持つほうがいい。

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