※※第36話:Make Love(Climax).4





 「もう、いい。すべて話した。許されようとは思ってねーから、なにも言わずに行ってくれ。」

 俯いている薔の口もとは、ただ、微かに笑っている。



 「俺じゃねーのが生まれてたら、きっと、みんな、幸せだったんだろうな。」









 「ばかあぁぁーっ!!!!!!」






 ナナは声と想いの限りに、叫んだ。





 「なんてことをっ…!なんてことをぉっ!」

 そして彼女はとめどなく涙をあふれさせながら、顔を覆って必死で叫ぶ。


 「許すもなにも、いっちばん傷ついてるのは、薔なのに、あなたはなんっにも悪くないのに、どうして別の人が生まれてくるんですかぁ!?」

 ボロボロと、涙はふりしきる。

 「わたしはっ、薔がいて、こんっなにも幸せなのに、花子ちゃんだって、いつもあんなにも幸せそうなのにっ、なんてことをぉっ!うぅ…っ、」

 こみあげる想いは言葉となるが、ほんとうは、言葉に、できないくらいを言葉にしたいのだ。


 「行くって、どこに行けばいいんですか!?こんっなに、ぜんぶ、薔へと向かっているのに、わたしはどこへ行くんですか!?行くんなら、ずっと、薔について行きますって!」




 「好きなんです、ほんっとに、離れられないんです!ご家族だって、その、夕月さんだって、あなたをほんとに愛してるから、生きてほしいと思うんです!こんなにも、薔は、愛されてるんです!」

 涙を必死で拭ったナナは、

 「だから、一緒に、帰りましょ」

 泣きはらした顔をあげた。








 ――――――…

 涙はぴたりと、止まって、代わりに押し寄せ、溢れ出したのは、愛おしくも切なく、深い、ただひたむきな情愛だった。






 ナナの目の前で、話し出したときと同じように彼女を見ていた薔は、ふるえもせず、本当に静かに、






 泣いていた。














 わかったからもう泣くな、と言うように、しっかりと伸ばした右手で薔はナナのあたまを撫でる。

 すべり落ちた手が、頬に残っている涙を拭う。

 その間もただ静かに、薔の頬には次々と涙が伝ってゆく。



 わたしは大丈夫よ、と言い聞かせるように、ナナは彼の右手を、頬に当てられたまま両手で包み込む。

 そっと離してから、ベッドの脇にあった毛布を引っ張ってきて、やわらかく薔の肩へと掛けて、微笑む。

 頬をやさしく撫で落ち、ナナの膝の上へ、ふわりと薔の右手は置かれた。





 トン――――…

 ゆっくりと、薔はナナの左肩へと、あたまをもたせる。

 ポタポタとこぼれ落ちる涙が、ナナの衣服を、静かに濡らしてゆく。



 ただただ、愛しいひとの肩を抱きながら、そのやわらかな髪を、撫でていた。







 「おまえは、ずっと、そばにいて、くれるんだな…、」
 「そうですよ、ずっと、そばにいますよ。」

 ふっと、とてもやさしく、ふたりの会話は始まった。


 そっとナナの膝に置かれた薔の手にも、涙はこぼれ落ちてゆく。



 「愛して、いいんだな、おまえを…、」
 「もちろんですよ。その言葉、逆に、わたしが薔に返したいくらいですよ。」

 ナナの手には、ぬくもりとちからがこもる。




 ふるえていなかった肩も、手も、すこしずつふるえだして、



 「俺は、生まれて、きて、よかっ…、」


 ギュ―――――…


 溢れだした。




 「………っ、」





 ナナの肩にかおをうずめて、しがみついて、ふるえながら、薔は泣いた。

[ 401/550 ]

[前へ] [次へ]

[ページを選ぶ]

[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]


戻る