※※第36話:Make Love(Climax).4





 「こんなに血、出てるんで、なんとか、したいんですが、」

 落ち着いてきたナナが、抱きしめられたままこう言ったとき、


 「もう、いいんだ。」


 ゆっくりと、薔は、離れました。




 「え――――…?」

 言葉の意味を必死で探すナナへと、


 「ナナ、」


 静かに語り出した、薔。



 「聞いてほしい、話がある。」






 「な、なんでも、聞きますよ!」
 目の前の薔があまりにもかなしみを纏っているので、ナナはとっさに明るく答えた。



 「あのな、」

 そして、彼は、明かしたのでした。



 「11年前、俺は、あるモデルに殺されかけたんだ。」






 「え………?」

 静まったナナは、ただ薔を見つめる。


 「家族が亡くなるまで、モデルやってたんだ、昔も。」

 見つめ返す、彼の話はつづく。


 「そんとき、すげー世話になったモデルがいて、男だったんだが、そいつにある日、車で、連れ去られた。」

 ナナはあのときのように、じっと、こころを傾けます。



 「そいつん家まで連れてかれて、いろいろ、されて、」

 息をのむナナのまえ、薔はせつなげに微笑んで視線を落とした。




 「最後に、首絞められて、“一緒に死のう”って、言われたんだ。」





 ナナは、目を見開く。


 「息ができなくて、目の前が真っ白になって、ほんとに死ぬんだな、って思った瞬間、夕月さんが、警察と駆けつけてくれた。」


 「夕月さん…?」

 ナナは、はじめて聞いた名前だったので、聞き返した。


 「俺の、命の恩人だな。」

 この答えに、

 「おおお!そのおかたはきっと、神様ですね!」

 ナナは、心底感謝した。



 彼女を見た薔は、クスッと笑って、

 「そうだな、」

 とは言ったが、またしても視線を落とした。



 「で、俺は助かったんだが、そのモデルは麻薬やってたみてーで、捕まったあと、死んだ。23歳だった。」






 ナナは、想いをまとめようとしながら、必死で薔の話へと集中している。


 「もともと、母親が望んだ仕事だったから、すげー自分を責めてたよ。」


 淡々と、なのか。

 切々と、なのか。



 「なんとか持ちこたえて、モデルはやめようとしていたときに、家族はみんな、亡くなった。」








 窓の外では、いろんな雑音が飛び交うが、いっさいこの部屋には届いていなかった。


 「あんな思いさせて、俺のせいで、家族は、死んだ。」

 静かに語りつづける薔のまえで、ナナは両手を握りしめている。


 「もう、だれも愛さずに、だれにも愛されずに、生きようと思ったんだが、無理だったな、」

 そして薔は、俯いて告げた。


 「おまえを、愛して、しまったから。」

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