第35話:Game(=Family).30





 「うっ……うっ……………」

 泣きながら走っていたナナだが、


 「うううっ………」


 こらえきれず、歩道にうずくまった。



 「うぅっ……うっ…うっ……」

 肩をふるわせて、ナナが泣いていると、


 「クゥン……」


 突然、花子のかなしそうな声が聞こえたのだ。



 「え…………?」

 涙でびしょびしょになった顔をナナがあげると、

 ペロペロ

 涙を拭うように、花子は彼女の顔をやさしく舐める。



 「花子ちゃん、ありがとう、」

 泣きはらした目で、ナナは笑って、

 「でもね、もうわたしじゃ、ないから、お別れなんだよ、」


 震える声で、花子を離そうとした。


 しかし花子は、頑として離れようとせず、余計にくっついてくる。


 「大丈夫だよ。きっと、あなたのご主人さまが選んだ人だから、根はいい人なんだよ。」

 言い聞かせていたナナの耳もと、


 チャリン―――…


 なにかが、音をたてた。




 ふっと目をやると、花子の新しい真っ赤な首輪にも、

 “7”

 がつけられていたのだ。



 「ほら、花子ちゃん、あなたにももう、ちゃんとついてるよ?」

 せつなく笑ったナナが手を寄せると、


 ピタ


 ひっくり返った7の部分が、涙に濡れたゆびさきに、張りついた。





 「――――――――…!」

 そして、ナナは、息をのんだ。




 裏には、ちゃんとしたローマ字で、




 “NANA”




 と、刻み込まれていた。







 ぶわっ

 このとき、とめどない涙は押し寄せて、

 「はっ、花子、ちゃ…っ、」

 涙越しだが、見つめた花子は笑いながら尻尾を振って、



 …――大丈夫、私たちは、家族なんだよ――――…



 そう言っているように、こころは聞き取れた。





 「うわあぁぁぁあん!」

 うれし泣きをあげたナナは、花子にしがみつく。


 「ほんっ、と…、ありがとうっ……!」






 …――どうかしてたわ。

 ほんのわずかでも、さいごだなんて、思ったなんて。


 あなたから告げられたわけでもない言葉を、真に受けるなんて。

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