第35話:Game(=Family).30





 花子は、自分の部屋ですやすやと眠っている。

 「かわいいな、」

 その寝顔を見つめながらニコッとしたナナは、

 「そういえば花子ちゃん、赤い首輪になってるな。今朝から。」

 そこにふと、気づいた。
 ちなみにナナはちゃんと着替えて、Tシャツにジーンズを履いております。



 「よくお似合いよ。」

 こう言って、花子の部屋のドアを閉めた瞬間、


 ピンポーン――…

 チャイムが鳴った。



 「誰だろう?」

 不審に思うこともなく、ナナは玄関へと向かった。





 ドア越しに見ても、かなりかわいい女の子が立っている。

 ガチャ――――…

 おもむろに、ナナは玄関のドアを開けた。



 グイッ

 するとそのドアをこじ開けるようにして、女の子は尋ねた。


 「ねぇ、ここ、薔の部屋よね?」





 「え?そうですけど…、」
 ヒヤリとしたナナに、

 「あんたが、ナナって女?」
 笑って、その女の子はまた尋ねる。


 「はい、そうです……」
 控えめに答えたナナへと、


 「あんた、消えて。」



 笑いながら、はっきりとそいつは言ったのだ。




 「なんで、ですか?」
 ナナは、拳を固める。

 「あのね、あんたがあまりにもブスだから、薔は飽きたんだって。」

 しかし、笑いながらの女の子に、どんでもなく酷い言葉を浴びせられた。


 「え――――…?」

 固めた拳は、だらんと落ちる。



 「あたしね、めちゃくちゃかわいいでしょ?女優なの。あたしに決めたのよ、彼は。」

 女優の笑顔で、最上は言って、


 「勘違いしてるだろうから、教えてあげるわ。」

 乗り出すようにして、ナナを見た。



 「あのペンダントはね、あんたのことじゃないの。あたしが7dollsって雑誌やってて、7'sdollって呼ばれてるから、あの意味は、“セブン”なのよ。あたし、ちゃんと言ってもらったんだから。」




 「…、それは、失礼しました。」

 なんにも見ていないナナは、ただ、俯いた。


 「もう顔も見たくないから、消えろって、ブス。」





 ナナは、ふらりと歩きだす。

 外へ出たとたん、


 バタン


 勢いよく、ドアは閉められた。




 「こんな、さいごって…、ないよぉ…!」

 顔を両手で覆ったナナの、ゆびのあいだから涙はこぼれ落ちる。



 ダッ―――――…

 そのままナナは、涙をふりまいて、駆け出していった。









 「良かった、ほんとにブスで。」

 玄関で最上は、笑っている。


 「あれなら、こんなめんどくさいことしなくても、すぐにあたしに夢中にな」


 バ――――――ン!



 最上のセリフは言い終えぬまえに、奥の部屋からだれかが勢いよく飛び出してきた。



 チャリン―――…

 花子は最上にいっさい目もくれず、お利口にドアを開けると猛スピードで駆け出していった。





 「なに?あの犬、」

 呟く最上は、

 「あたし、動物大嫌いなのよね、帰ろっと。」

 えげつない声で呟くと、部屋を出て歩きだした。


 マンションは、かろうじて、オートロックではあった。

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