第35話:Game(=Family).30






 つぎの日の、朝。


 「ん…………?」

 目を覚ましたナナは、ベッドのうえに自分しかいないことに気づき、なんだかせつなくなった。

 薔はすでに、出かけたようだ。


 「んんん………」
 こびりついた血に泣きそうになって、愛おしい匂いに包まれていると、

 「ワン!」

 ベッドのしたから、突然花子が顔を出した。


 「おおお…っ!?」

 びっくりしているナナへと顔を近づけて、花子はクンクンしております。


 「花子ちゃん、おはよう。」

 笑う、ナナ。


 「いつから、いてくれたの?」
 この問いかけに花子は、尻尾をブンと振って応えました。



 「いってらっしゃい、って、言いたかったよ…、」

 伸ばした手で、フワフワと花子のあたまを撫でるナナは、こう呟いた。




 んでもって、ちゃんとキッチンには、ナナの朝ご飯が用意されていたのでした。







 ナナが、薔の作っていった朝食を美味しくいただいている頃。



 コンコン―――…

 沖里の事務所を、とある人物が訪問した。

 「どうぞ、」

 この呼びかけによって、顔を出した人物に、

 「これはこれは、」

 沖里は、笑みを浮かべる。



 そこに立っていたのは、最上 佐江子の所属事務所の社長だった。


 「お電話をいただけて、光栄です。」

 オッサンふたりが、握手で挨拶を交わす。


 「どうぞ、」
 まず社長をソファへ座らせて、つぎに目の前で腰かけた沖里は、尋ねた。


 「お話と、言うのは?」





 「沖里くん、」
 「はい、」

 やたら中年太りした社長は、こう言ったのだった。


 「ウチの佐江子と、お宅の薔くんを、付き合わせたいのですよ。」


 と。




 「え?」
 キョトンとした沖里に、社長はつづける。

 「佐江子はね、いたく彼を気に入ったようで、自分と同じくらいに売り出したいと言うんだ。」


 「それは、光栄です。」

 沖里には、だんだんと不気味な笑みが浮かびくる。

 「佐江子の望みは叶い、キミの事務所からも大スターが誕生する。悪くない話だろう?」
 「願ってもないです!」




 そしてオッサンふたりは、声をひそめた。

 「佐江子は、非常に焦っているんだ。今夜の生放送で発表して、明日会見を開きたいと言っている。」
 「よろしく、お願いします。」

 そして再び握手をして、

 「なら、すぐに手配するよ。薔くんにはうまく、伝えておいてくれ。」
 「はい、彼なら、大丈夫です。」

 本人が本気だったらどうなることやら、の、契約を交わした。



 「では、私は急ぐよ。これから末永く、よろしく頼む。」

 オッサン社長は、上機嫌で帰っていった。





 「ついに、大スターかぁ……」

 金・名誉、それらへの欲は、人を変えてゆくのだろう。



 「写真なん、そんなに撮らなくても、暮らせるんだろうなぁ。」




 …――変わってしまったのは、いったい、だれ?

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