第35話:Game(=Family).30





 知らずに、ただ、ふたりの時間は流れてゆきます。


 花子をなでなでしていたナナはまたしてもリビングで寝てしまい、起きたとき、すでに日は暮れかけていた。

 「わぁあ!また寝ちゃったよぉ!」

 慌てふためく彼女へと、待ってましたとばかりに花子が駆け寄る。


 「花子ちゃん、おはよう。」
 にこにこしているナナの頬を、花子は尻尾を振りながら嬉しそうに舐めている。

 「ほんっと、くすぐったいよ。」

 こんな感じで、ナナと花子がじゃれあってだかいると、


 ガチャ―――――…


 きっと運良く、薔が帰宅した。




 「ひゃあぁ……っ、」

 まさか会えるとは思っていなかったナナは、飛び跳ねて驚いており。


 ギュ―――…


 ドキドキの心臓を抑えこもうと、真っ赤な顔を見られないようにと、花子をつよく抱きしめていた。






 「よく待ってたな。」

 リビングのドアを開けた薔は、まずこう言って、


 歩み寄ると、


 「ただいま、」


 やさしい声で、ナナのあたまをなでなでした。



 「お…っ、おかえ、りっ…なさぃ……っ、」

 すこしナナはビクッとなったのだが、

 「会いたかったよ。」


 やさしく、薔は、つづけます。



 そのとき、

 「ワン!」

 嬉しそうに鳴いて、花子が彼に抱きつきました。



 「もちろん、花子にもだよ。」

 笑って、そのあたまを薔が撫でていると、

 「クゥン、」

 なんだか甘えた声をだして、花子はご主人さまを押し倒した。



 (おおお!花子ちゃん、大胆だね!)
 感心するナナですが、うん、思い起こしてみたほうがいいよ、色々と。


 「くすぐったいよ、花子、」

 寝転んで笑う薔の頬を、花子がペロペロと舐めている。
 ゆさゆさ揺れる尻尾が、暮れかけた部屋のなかを照らし出すかのように。



 ナナは膝歩きをして薔に近づくと、

 「あの、お熱は大丈夫ですか?」

 覗き込むようにして、尋ねた。




 「大丈夫か、おまえが確かめてみろよ。」

 すると、薔は微笑んで、

 「あんとき、みたいに…、」

 囁きのごとく、ナナを見上げた。



 「えと、」
 もじもじするナナには、それがいつのことだか、よくわかっております。

 花子は遠慮したのか、薔の胸元のあたりにあたまを乗せて、ゆったりと尻尾を振ります。




 コツン――――…

 かがみ込んだナナは、薔の髪をかきあげておでこをくっつけあった。


 「なんか、あっつい気がしなくもないんですけど…!」

 真剣にナナは心配したが、

 「それは、おまえのせいだな。」

 くっつけあったまま、薔ははっきりと告げた。




 「えええ!?そんなっ、」

 色々ありすぎたので、離れようとしたナナ。


 の、

 キュ―――…

 あたまに片手をまわして、薔は囁いた。



 「こんだけ好きなら、熱くもなるよ…、」





 「えっ―――――…?」

 ナナは果てしなく、ドキンとした。



 そんな彼女へと、

 「ナナ、」

 瞳を細め、囁きつづける薔は、


 「冷まさなくていいから…、おまえの熱で、焼き尽くせ……」


 ひどく近づけて、


 チュ――――…


 瞳を閉じた瞬間、甘くくちづけてきた。



 「ふぅ…っ、」

 ナナもきつく瞳を閉じて、キスに応える。


 ちゅっ

 やわらかいキスを何度かして、

 スッ――――…

 いったんすこし離れると、ぼんやりとふたりは見つめあった。




 そして、同時に、


 『好き…………、』


 と、囁いたのだ。





 「プッ、」

 なんだかおかしくなって笑うナナと、

 「おい、笑うな。俺は真剣だ。」

 落ち着き払っている、薔。



 「……………♪」

 体勢はさっきのまんま、花子も嬉しそうに尻尾をブンブンします。




 「ぇえ?わたしだって、真剣ですって…!」

 ナナは真面目な顔をしようとしたが、にやけそうになるので、

 「おまえ、かわいすぎ、」

 今度は、薔が、笑いだした。



 「えええ?」

 なにより笑顔にドキドキしまくってるナナだが、気づくと一緒になって笑っていた。




 「はぁ……っ、」

 やがてキスへと堕ちてゆき、かなり長い間、くちびると舌とゆびを絡めあっていたのだった。

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