第35話:Game(=Family).30





 最上は雑誌を眺めていたが、ふと、

 「あれぇ?愛羅ぁ?」

 青ざめて立ち尽くしている、愛羅に気がついたようだ。


 「売れない読モのあんたが、あたしと一緒のスタジオでなにやってんの?」

 じつは、ふたりは同期だった。

 この言葉に愛羅は凍りつき、最上のまわりには何人かのスタッフがいたが、みんな俯いてだれもなにも言わなかった。



 「てかさぁ、あんた、16歳だよね?」
 と、つづけた最上は、

 「一つ下なのに、この子すんごいと思わない?」

 と、先ほどまで眺めていた雑誌に再び目を向けた。



 「はい……?」

 ちょうど愛羅の目にも見える角度になったので、彼女が遠くから覗き込むと、


 そこに写されていたのは、薔だったのだ。



 「なんか、ポスターが話題ですんごいらしいから、この雑誌に急遽掲載されたみたいだけど、あたし、この子と付き合いたいのよ。」

 笑って言う最上だが、

 「いや、薔さま、彼女いるし。」

 腹が立ちすぎた愛羅は、とっさにそう明かしてしまったのだ。




 すると、

 「ちょっと、」

 はっとした愛羅が顔をあげたとき、最上は彼女を睨みつけていた。


 「なにそれ?」




 (しまった……!)

 口を覆ったが、後の祭だ。


 「話聞かせてよ、愛羅ちゃん。」

 こんどは、笑っている最上は、


 「ムカつく。あたしね、手に入らないものは、この世にないの。」


 女優の笑顔で、こう言ったのだった。







 おい、魔の手だか、邪魔者だか、なんとかしてくれ。







 「愛羅はほんとに、ダメモデルね。話が下手くそで、疲れたわ。」

 こう呟く最上には疲れた様子もなく、逆に愛羅は疲れきった表情でとぼとぼと廊下を歩いていった。


 「どうやって、別れさせよっかなぁ。てか、あたしのが絶対にかわいいんだから、誘えばなんとかなるか。」
 スタッフとは別れて廊下を歩いていた最上が、こう言った瞬間、


 ザッ――――――…


 誘おうと思っていたひとが、中央廊下を堂々と歩いていった。




 「ちょっと、運命かも!」

 テンションをあげた最上は、女優の顔になって、


 「あのぅ、」


 声を掛けた。




 「あ?」

 薔はいったん、ちらりと振り向いたが、


 「あぁ、まったく知らねー顔だったな。」


 普通に落ち着いて、こう呟くと、すぐに堂々と歩き出した。



 「ぇぇぇぇぇぇぇええ!?」
 有名女優は、心底おったまげる。


 そんでもって、走って薔のまえへとまわりこんだ。


 「あの、あたしをほんとに、知らな」
 「おい、」


 ………………はい?


 「だれが目のまえに立ってもいいと言った?このキモ猫被りが。」


 「ぇぇぇぇぇえ!?」


 目を見開いた最上のまえ、まぁ、いつものように言い放った薔は、


 「萎える、どけ。」


 こうもはっきり言って、立派に歩いていった。





 見送っていた最上は、

 「もしかして、いま流行りのドSとか!?」

 やたら喜んでおり。


 「ますます、付き合いたいんだけど!」

 と、言ったあと、



 「あのネックレス、好都合なことに、数字だったねぇ。うまいことできるわ、これなら。」



 本性をあらわにした、えげつない笑いを見せた。







 おおいっ!

 もう、どうなってんだよ!

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