第3話:Game.1




 音楽室にいた。

 いつも音楽室を使っている吹奏楽部は、学園祭の練習だかで、校庭に移動をしていた。
 音楽室には、今のところ誰もいない。

 薔は、ピアノのまえに立っていた。


「なんで、あんなもの持ってるの?」
 ナナが震えながら聞くと、
「写メったからだと言ったろーが。」
 …………しゃ?


「しゃ、“しゃめ”って、なに?」
「知らねーなら辞書だ。」

 ちょっ、
「ちょっと待ってよ!アンタのその辞書に対する厚い信頼は、一体なんなのよ!?」
「ならググれ。」
 …………ぐぐ?


「え、えーと、おそらくここで“ぐぐ”とは何かと尋ねたら、結局は辞書にたどりつくので、この“ぐぐ”が辞書に載っていない場合は、わたしはどうすればいいのだろうか?」
「おのれで考えろ。」


 ……………うん、知ってたよ。
 キミがそういうひとだってこと。





「なんで………、こんなことするの……………?」
「これはゲームだ。」




 ゲーム………………?



「今日からお前は、俺を“さん”づけで呼べ。」
「いやだ。」
「それから、敬語を使え。」
「い・や・だ!!」
「言っておくが、」
 とんでもなくイジワルな目つきで、薔はナナを見た。



「お前に選択肢は無え。ただ黙って、俺に従え。」
「断る!」


「あの写真、焼き増しすればいくらでもあるぞ?」





「………なにが、言いたいの?」
「それくらいお前でも、わかるだろーが。」
 ぐっ
 ナナは拳を握りしめる。

「それともなにか?逆に俺を殺してみるか?」





「それは、できないのよ。」
「あぁ、そうだったな。」
「違うの!」
「あ?」
 ナナは叫んだ。


 そして目の前の男に向かって、言った。
「アナタは、ヴァンパイアにとって、“上玉”という存在なのよ。」
「なんだ?それは、」
 ………は!ここ、使うべきじゃない!?
「知らないなら辞書を」
「言え。」
 ………………うう(泣)



「“上玉”とは―――――…」




 ここでナナは、第二話参照の“上玉”の説明をした。恥ずかしかったためセックスのくだりは外したが、絶頂のくだりを外すのを忘れた。


「“上玉”は、とても貴重な存在だから、ヴァンパイアの手によって殺すことは決して許されない。そして、我々の仲間にすることも、許されないのよ。」
「仲間?」
 ナナはつづける。

「ヴァンパイアは、おのれの血を人間に与えることで、人間をヴァンパイアにすることができるの。」
「ふーん、」
 しかしこの次の質問に、ナナは答えられなかった。




「そもそも、能力が通用しねぇなら、ヴァンパイアになんて出来ねえんじゃねーのか?」




 ………………あれ?
 そう考えれば、そうよね?




 じゃあ、なんで、王はわざわざ、こんな掟を設けたのかしら――――――…?




 わからなかった。

 このときは、まだ。

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