※※第34話:Make Love….3






 「あー、あいつのおかげで、熱出せて、逆によかったな。」

 ナナの心配はむなしかったのか、それとも好都合か、薔はかなり早めに帰宅をした。


 「花子?」

 花子のお出迎えがないため、怪訝にも思ったが、玄関には見慣れた靴が揃えて置いてある。


 「…………、」

 薔はただ無言で、リビングへと向かったのだった。








 リビング、にて。


 「おい、」


 花子を抱いたまんま、ナナは深い眠りに就いていて。

 花子もすやすやと眠っている。


 「俺には帰れと言っておきながら、おまえはここで、寝るか?」

 薔は静かに、近づいて。


 ナナを覗き込むようにして、花子のうしろに座った。

 気配で目を覚ました花子は、ナナに抱きつかれたまま、ゆらゆらと尻尾を振りはじめる。



 シャラ――――…

 そのとき、ナナの首すじを、ネックレスが滑り落ちた。



 「珍しいな、おまえが…、」

 呟いた薔の目には、確かに、


 “S”


 と、映った。




 それと同時に、

 ツ―――――…

 ナナの頬を、一筋の涙が伝って、


 「……しょ…ぅ……………」


 消え入りそうな寝言は、はっきりと、そのひとの耳にちゃんと届いた。







 「…―――――っ!」

 初めてのことだが、薔の頬は赤くなって、彼は片手で口元を覆った。

 もう片方は、うしろについて、ただただ、ナナを見つめる。





 …――涙なんて、いくらでも、見てきた。

 泣かせたことも、ある。


 なのに、なぜ、

 こんなにも心惹かれて、止まない―――…?





 しばらく薔がナナを見つめていると、花子はペロペロとナナの頬を舐め出した。

 「んにゃ…ぁ………」

 ナナは眠ったまんまだが、くすぐったそうに面白い声を出す。



 薔はクスッと笑って、

 「なぁ、花子、」

 やさしく、花子に声をかけた。



 「そこ、すこしだけ、いいか?」





 花子は嬉しそうに、ナナの手をすり抜けてゆく。

 「悪りぃな、」

 こう囁いた薔は、ゆっくりとナナに寄り添ったのだった。

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