第33話:Game(&Each…).29





 ナナは無言で、立ち尽くす。


 「なんで電話に、出ねーんだ?」

 薔は落ち着いて、問いかける。



 「な、んで……?」
 ナナのくちからやっと出た言葉は、こうだった。


 「おい、」

 ゆっくりと、薔が歩み寄る。


 ナナは俯いて、拳を固めた。




 すると、目のまえに立った薔は、

 スッ――――…

 かがんだ。


 呆気にとられるナナの鞄を拾い上げて、

 「落としたぞ?」

 彼女に、手渡す。



 「あ、ありがとう、ござい、ま、す……、」

 渡された鞄を、ギュッとする、ナナ。



 「いつから、待って、らしたん…、で、すか…?」
 俯いてはいたが、言葉はやがて出てきた。


 「大して長くもねぇよ。それより、おまえん家だれもいねーぞ?」

 すると薔はこう返してきたので、

 「えっ…?」

 ナナはようやく、顔をあげたのだった。




 ザワ―――…

 見つめあうふたりを、風が撫でて、吹き抜けてゆく。




 「話あんだが、あがっていいか?」

 薔のこの問いに、

 「は、はい……、」

 俯くようにして、ナナは頷く。




 キィ――――…

 門を開けて歩いていったが、並ぶことはなかった。







 家のなかはやっぱり、シンと静まり返っている。


 (お母さん、また、予感とか働いたのかな?)
 そう思ったナナだが、置き手紙の類は置かれてなかった。


 「あがるぞ。」

 薔はこの日、ナナが目にしたことのない靴を履いていて。


 嫌なくらい、目についてしまう。

 そして彼の着ている服は、似合いすぎているが、なんだか息苦しそうだった。




 ふたりは無言で、階段をあがっていった。







 「おまえは、きれい好きなんだな。」
 感心したように薔が言うのも確かで、この日もナナの部屋はちゃんと掃除されていた。



 くるしい。
 大好きな匂いなのに、まるで、むせかえるようで。


 「は、話って、なんですか?」

 ナナは薔に背を向けたまんま、問いかけていた。




 「あぁ、おまえ、もう夏休みだよな?」

 問い返してきた彼に、

 「そう、ですけど…、」

 静かに、ナナはこう返す。



 すると、

 「なぁ、ナナ、」

 薔は言った。



 「花子を、おまえに、預けてもいいか?」






 「えっ?」
 ナナはとっさに、振り向く。

 「安心しろ。ただ様子を見に、来てくれればいい。おまえん家まで、連れて来る必要はねぇ。」

 つづける薔に、

 「なぜに、わたし、なんですか?」

 ナナが尋ねると、


 「花子は、俺とおまえにしか、懐かねーんだよ。」


 彼ははっきりと、明かしました。




 「は、はぁ……、」

 言葉をうまく飲み込めずに、ナナは立ちつくす。


 「わかったか?」

 先ほどまでの静かな佇まいはなくなり、薔は堂々とした態度になった。


 「わかり、ました…、わたしも花子ちゃんは、大好きなんで、お任せください……、」

 ナナはちゃんと、頷く。


 「頼んだぞ。」

 立派に言った、薔だが、


 (…このひと、)


 ナナは、思った。




 (痩せたな――――…)


 と。




 (もとから、しっかりはしてるけど細かったから、心配、だよ、)




 そのとき、

 「おまえ、」

 薔は静かに、口にした。




 「痩せたな。」

[ 362/550 ]

[前へ] [次へ]

[ページを選ぶ]

[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]


戻る