第32話:Game(+Game).28
自宅の住所を告げられて、しばらく車を走らせていた醐留権は、
カタカタ…
隣でこけしちゃんが、微かに震えていることに気がついた。
「桜葉、大丈夫か?そんなに、怖かったのか?」
ちらちらとだが、真剣に隣へ視線を送る醐留権に、
「違うのぉ…、」
こけしちゃんは、震える声で告げた。
「あたしねぇ、なんだかものすごぉくぅ、嫌な予感がするのぉ。」
と。
「は?」
一瞬、醐留権はこけしちゃんへ、顔すら向けた。
「だからねぇ、先生ぇ、あたしが、ちからになりたいんだけどぉ、あたしでなれるかが不安なのぉ。」
言葉にしてしまったからか、こけしちゃんはさらにふるえだす。
「どぉぉしたら、いいのぉ?」
そして俯いたが、
「なぁ、桜葉、」
とても穏やかに、醐留権は言い聞かせた。
「ちからになりたい、というのは、ちからの加減ではない、想いの加減だ。」
「えぇぇ…?」
顔をあげたこけしちゃんは、やっぱり泣きそうな顔をしていた。
それもあって醐留権は、さらに穏やかにつづけた。
「だからな、桜葉、ちからになりたいという、その想いは、言葉にもできるうえ、それだけでとてつもないちからになるんだ。不安なんて払いのけて、ちからになってやれ。」
「先生ぇ…、」
こけしちゃんは泣くことなく、震えもおさまってきており。
「それに、私が君のちからになるよ。」
穏やかに、確かに、醐留権は告げた。
「ほんとぉぉにぃ?嬉しいのぉ。」
にっこりと笑う、こけしちゃん。
「な?ちから、あっただろ?」
「ほんとなのぉぉ。」
ニコニコ顔を、見てはいなかったが、
「今のは確かめさせたわけじゃない、本気だ。」
前を向いたまま、醐留権は言った。
「ゾーラ先生ぇ、かっこよすぎぃ。」
「あはは、君はその呼び方、私の名前まったく使ってないね。」
「エヘヘぇ。」
はにかむこけしちゃんに、
「だが、そう呼んでくれていい。君ならな。」
醐留権は、こう、付け足したのだった。
―――――…
家の門の前で、こけしちゃんが手を振って見送っている。
ちいさなからだで、おおきく円を描いて。
「……久しぶりに、ひたむきな生徒たちと向き合った。」
ハンドルを片手で持ち、醐留権は髪をかきあげた。
「予感、それはきっと、本物なのだろう。」
そう呟いた醐留権は、
フッ――――…
不敵な笑みを浮かべていた。
「いいさ、せっかく出逢えたかわいい生徒たちだ。とことんちからに、なってやるよ。」
黒塗りのベンツは、夕日に染まりゆく車道を駆け抜けていった。
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