第32話:Game(+Game).28






 「吉川先生はぁ、部活がないならちゃんと事前に、教えてほしいのぉぉ。」

 ニコニコと歩くこけしちゃんは、それでも吉川に憤慨しており。


 「けっこういつもでぇ、困るのぉ。」


 にっこりとこう言ったとき、


 スッ――――…


 ひとりの男性と、すれ違った。


 その人は通り過ぎるとき、

 「…もう、心配いらない。」

 と、独りごち、汗をポタリと落としていった。




 「……………?」

 こけしちゃんは立ち止まって、男性の後ろ姿を見る。


 言葉にではない、その人は、“その人が残してゆけるはずないであろう香り”を、ほんのわずかながらに漂わせていったのだ。




 「なんでぇぇ?」
 ただただ、立ち尽くすこけしちゃんに、


 ドンッ


 いきなり、だれかがぶつかった。




 「痛いのぉ。」
 肩を押さえるこけしちゃんの前で、
 「ってぇな、なに突っ立ってんだ?」

 眉間にシワを寄せた、他校の不良学生が凄んでいた。
 ちなみに、ぶつかった子も含めて、三人いた。


 「ぜぇんぜん美形じゃないのにぃ、Sだと萎えるのぉ。」
 こけしちゃんはひるむことなく、にっこりと、それとなくすごいことを述べる。


 「ぇぇえ!?なんだこの女!?」

 不良学生は、三人で食ってかかろうとした。



 そのとき、


 キィ――――…


 真っ黒いベンツが、横付けしてきた。




 「はい………?」
 不良学生はみんなして、そちらを見る。

 フロントドアガラスがおろされ、つけられているほうはベンツなので助手席なんで、運転席から身を乗り出して、


 「みっともないな。貴様らは女性ひとりに対して、なにをムキになってるんだ?」


 かなりの目つきで三人を睨みつけているそのひとは、醐留権先生だった。




 「うわぁ!ごめんなさい!」

 車だの目つきだのの凄さに怯えまくった不良学生らは、逃げるようにして走り去った。



 「先生ぇ、ありがとぉうぅ。」

 ぺこりとする、こけしちゃん。


 「大丈夫かい?」
 顔をあげてすぐに聞かれて、
 「なんともないのぉ。」
 ほっぺたをかなりピンクにさせたこけしちゃんは、にっこりと微笑む。


 「いや、しかし、桜葉、君はなんだか危なっかしいな。」

 すると、醐留権は、


 「保護したという理由で、送り届けるよ。乗りなさい。」


 こけしちゃんに、微笑みかけた。



 「でもぉ、」
 こけしちゃんはもじもじとしているが、


 「あはは、大丈夫だよ。ホテルに連れて行こうだなんて、思っていてもしないよ。」

 それ大丈夫なのか?というセリフを、醐留権は付け足す。


 「そういうとこぉ、すごぉぉく様になってるかもぉ。」


 キュートに笑うこけしちゃんは、


 「じゃあぁ、お邪魔しますぅぅ。」


 醐留権の車へと、乗り込んだのだった。

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