第32話:Game(+Game).28




 「あはは。いやぁ、醐留権先生、あのふたりは最初いがみ合うだかしてたんですが、最近めっきりラブラブなんですよ!愛のちからはすごいですね!」

 明るく笑って言う吉川に、

 「吉川先生、あなたは教師としてはイマイチだが、人としてはまぁまぁですね。」

 笑って醐留権は返す。


 「ぇえ?」

 吉川は笑ったまんま、目をぱちくりした。




 すると、

 「おや?」

 醐留権は、気づいた。




 「………………、」

 一番前の席のこけしちゃんは、ほっぺたをかなりピンク色に染めて、ぽーっと醐留権を見上げていた。

 「ゴルゴンゾーラだぁぁ…、」

 その手から落ちた鉛筆が転がって、床まで落ちて、コロコロと教壇へ進んでゆく。


 「君、」

 その鉛筆を拾い上げて、醐留権はこけしちゃんに歩み寄り手渡した。

 「落としたよ。」



 「わざとかもしれないのぉ。」

 こけしちゃんは、頬に手を当ててにっこりとはにかむ。


 「かわいい生徒だ。君が一番に、私へ反応を示してくれたよ。」

 醐留権は笑って、教壇へ戻る。



 これを言われたこけしちゃんは、何気に真っ赤になっていた。





 「ぁあ、醐留権先生は、なんだかすごいな。」
 吉川は、感心したようだが、いったいどこに?


 「みんな、醐留権先生はな、いま明かすとじつはこのクラスにもちゃんといた、副担任の羅澤(らざわ)先生が産休に入っちゃったから、あと5日で夏休みというこの時期に、わざわざいらして下さったんだ。仲良くするように!」




 「はーい!」


 みんな明るく返事をしたが、ふたりだけ別世界で、まぁ、滞りなくホームルームは進んでいった。









 職員室、にて。

 「醐留権先生、コーヒーとお茶、どちらがいいですぅ?」

 なんだか甘い声でこう声を掛けたのは、ご存知、葛篭先生だった。

 「わたしは、玉露しか飲まないんだが、」
 コーヒーの予想を覆して答えた醐留権に、
 「きゃあ!渋い!かろうじてあります!」
 答えた葛篭は、いそいそと給湯室へ入っていった。


 「……………、」
 醐留権は黙って、前を向く。


 ジーッ


 その姿を前でジッと見つめていたのは、


 横科先生だった。



 「何か?」
 醐留権が尋ねると、


 「ごごごご醐留権先生は、おいくつなんですか?」

 どぎまぎと尋ね返す、横科。


 「25です。」
 「若ぁ!」

 のけぞる横科に、

 「なに言ってるんですか?もっと若いの、いつも相手にしてるでしょう?」

 醐留権はこう言った。


 「おぎゃあぁ!それもそうです!」

 そして仰天する横科に、

 「先生は、生まれたての赤子ですか?だからそんなにも、産毛なんですか?」

 醐留権は、凄む。



 「ぇぇぇええ!?明らかにベテランのボクのが、ひどいこと言われてるよぉ!?てか、ちょっとしたデジャヴを垣間見たよぉ!?」


 横科よ、どんなデジャヴだ?



 「教師は、年功序列じゃない、スキルです。」

 きっぱりと言い切る、醐留権のもとへ、


 「醐留権先生、玉露ですぅ!」


 嬉しそうに、葛篭がお茶を運んできた。



 「ああ、すまない。」
 「いいえ〜!」


 「え?ボクのは?」

 キョトンとする横科。




 「また何かあったら、お申し付けください〜!」
 こう言って葛篭が去ったあと、

 「………………、」

 醐留権は黙ってお茶を眺めていたが、


 「ヨコシマ先生、」

 前の横科に声を掛けた。


 「どこをどう聞き間違えたのーっ!?」

 またまたのけぞる、横科。


 だが、

 「このお茶、あげます。」
 なんと醐留権は、自身に渡されたお茶を差し出したのだ。


 「ぇえ!?醐留権先生って、じつはいい人!前言とか、撤回する!」

 横科は喜んで受け取った。


 「ちょっ、これ、茶柱立ってるよーっ!」


 やたら縁起がよいのだが、


 (それ、玉露じゃねーよ。)


 醐留権は、玉露以外は受け付けなかった。

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