第3話:Game.1



 シクシクシク……。
 ナナは保健室にいた。
 意外にも保健室は、分かり易い場所にあった。

「三咲さん、大丈夫?」

 優しく尋ねる、保健室の美人先生(しかし37歳にして独身、彼氏いない歴:12年)。

「大丈夫です………………。とんでもない絶対君主のまえに為すすべがなく、生きて帰れる気が微塵もしないだけですから……………………。」

 ……アンタそれ、全然大丈夫じゃないよ。

「だ、だいたいが、あのひと、一体なんなのかが全然わからないんです……………。いきなり、キスなんかしてくるわ……………。放課後残れと、言うわ………………。」

 キス!?

 三咲さん、先生なんてもう12年くらい、キスなんかしてないよ!
 彼氏いないからね!
 ………こんなに美人なのに…………(イエス、ナルシスト!)。


「三咲さん、」
「はい?」

 ひどい泣き顔で先生を見つめると、声をひそめて彼女は言った。

「先生の勘が正しければ、アナタ告白されると思うわ。」

 ………………告・白?

 あたまのなか、真っ白。

「だって、キスなんて好きじゃなきゃそうそうできるものじゃないでしょ?だからきっとそのひとは、アナタのことが好きなのよ。」

 ………………好・き?

「いいいいいやいやいやいや!それは断じてありえません!だいたいアイツに、“好き”という感情があるとは、到底思えません!アイツはすべての人間を、“下僕”としてしか見ていません!」
「三咲さん……………、今の世の中で、そんなひといたら、犯罪だよ…………………」
「そうなんです!アイツはれっきとした犯罪者なんです!でも誰もアイツを、捕まえることなんてできません!」

 ………………プッ。

「あははははは!」

 突然、保健室の(美人)先生が、腹をかかえて笑い出した。
「どうし…たんですか…………………?」
 ナナは、唖然として聞いた。
「ご、ごめんなさい!あはは!三咲さんが、あまりにも面白いから……。」
 面白い、だと?
 くっくっと笑いつづける先生に、少しだけ腹が立つ。
「先生、わたし、今とてつもなく不幸なんです……………。面白いなんて言ったら、訴えますよ……………。」
「あっはっは!」

 ………………ムカ。

「あ〜、面白い!三咲さん、アナタまるで、“恋する乙女”よ?」

 こ・い?
 …………………鯉?(ちがう)

「先生………これを恋と呼ぶのなら、この世に奴隷制度は存在しませんでした…………………。」
「あ〜っはっはっは!」
 またしても笑い出す、ナナの前の(ナナにとって)意味不明な先生。


「とにかく、三咲さん、放課後、告白されるといいわね!」
 笑いながら肩をたたかれ、
「告白なんて、されませんてば!」
 と言ったナナは、恥ずかしさと苛つきのあまり、
 去り際に、

「あんな、“すべての教師にすら命令口調の生意気な”ヤツなんかに、告白なんてされたくありません!」

 と叫んだのであった。

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