第2話:Taboo.2





 上玉、とは、世界に数名しかいないとされている、極上の血(通称:F・B・D)を持つ人間のことである。
 なぜこの血を持って生まれてくるのかは、未だ解明されていない。
 ただ、上玉には、ヴァンパイアのいかなる能力も通用しない。
 ほんの数滴味わうだけで、すべてのヴァンパイアに最高の悦びとちからを与え、翻弄し、絶頂に導くことができるとされている。
 セックスに等しい快楽を、味わわせることができる人間。
 ヴァンパイアにとって上玉は、最も貴重で、神に等しい存在、それと同時に最も危険で、この上なく厄介な人間のことであった。








「ふ…っ、ンっ……」


 ナナのなかの理性は、やられていた。
 からだが言うことを聞かず、眩暈にも似た快感に溺れてしまっていた。
 いちど満ち溢れたエネルギーが、すべて吸収され、その充実感によって、全身が麻痺する感覚。
 火照ったからだは、ぐったりと血液を貪っていた。


「は………………」


 そっとくちびるが離されると、ナナからは吐息が漏れる。

「まだほしいなら、言え。」

 数センチほど離れたところで、薔は悪魔のように囁いた。

「はっ…………はあ…っ……………」

 肩で息をし、うつろな瞳のナナは、
「だい…じょお………ぶ……………」
 やっとのことで、そう呟いた。

「なら、今日はここまでだ。」

 ゆっくりと手を離されたナナは、床にへたり込んだ。




「お前はキスだけでイけるほど、だらしねぇカラダなんだな。」




「はあ……………………」
 いくらか息が静まってきたところで、
「行くぞ。」
 ドアの入り口に立ち、薔が言った。


「行くっ…て…………どこへ………………?」
 驚いたナナが振り向き尋ねると、薔は凄む。
「あ?またイきてーのか?」

 …………ひぇぇぇえ!!

「いいです!大丈夫です!」
「なら行くぞ。」

「ちょっと待ってよ………わたし、まだ、歩けそうもな…………」
「行くぞ、堕ちこぼれ。」
 な―――――――っ!!!?
 ナナは立ち上がり、薔の前にツカツカと歩いて行った。
「まだそんなこと言うの!?このバ」
「歩けてるよな?」


 あ………………。

 せめて、「バカ」って、言わせてほしかった………………。

 …………しょぼん。




 教室を出たとき、
 (そう言えばここ、何の教室だったんだ?)
 と、気になったナナは表札を見た。

 「1年5組」

 …………ここ、わたしのクラスだわ。
 







 不本意ながら、ナナは化学室まで薔と一緒に歩いた。
 が、
 この間ふたりは、ただの一言もしゃべりはしなかった。

 (き、気まずい………………)

 ナナだけは、始終そう心のなかで呟いていたが。

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