第2話:Taboo.2




 ドアはまた勢いよく、閉められた。


 (ちょっと……わたしもう………歩けないんだけど…………)


 こころで愚痴るナナは、それでも強引に手を引かれる。

 机と椅子が並ぶ教室。


 ドサッ


 その真ん中あたり、空いたスペースで手を離され、ナナは床にひざまずいた。

「はぁ……はぁ…………」

 荒く息をしながら、やっとのことで顔を上げると、目の前に、

「また……アンタ…………?」


 ご想像いただけたかと思うが、「暮中 薔」が無言で立っていた。

「なんで……いつも………邪魔ばかり……するの………?」

 途切れ途切れに尋ねると、

「逆に今のこの状況で、どこをどう間違えたらこの俺が“邪魔”になるんだ?」

 ナナを見下ろしながら、薔は皮肉たっぷりに聞き返してきた。


 ………ま、負けるもんか。


「だって………こないだは…アンタが現れたから……満足できなかったし………アンタがヘンなこと……言うから………血を……吸えなく…なっちゃったし…………だから……もう……ちからが…出ないの………………」
 ナナは、出ないちからを振り絞り述べた。
 だが、返ってきたセリフは、


「そのわりには、やたらムダにしゃべってんぞ?」




 ………ばかやろう!
 おまっ…、息も絶え絶えなんだよ、こっちは!
 ふざけたことをぬかすな―――――――っ!!
 しかしむなしくも、この叫びは声にはならなかった。
「ふーん、」
 怒りのあまりフガフガ言うナナに向かって、薔は言った。

「あれ、そんなに嬉しかったんだな。」




 ガタッ




 ナナは立っていた。
 どこにこんなちからが眠っていたのか、驚く余裕もないくらい激しく腹が立っていた。


「バカにしないで。」


 左手で、目の前の男の整った顎を掴む。

「わたしが本気になれば、アンタなんてひとたまりもないのよ。あんな言葉、ちっとも嬉しくなかったし、何ともないわ。」

 しかし薔は、全くもって動じない。
 ただ黙って、ナナを見据えている。
 それが余計に、気に障った。


「もう生意気な口、たたくんじゃ――――…」
 ない。


 と、言い終える前に手を離した。

 このとき、怒りによって強化されていたナナの手は、爪が常人の数倍伸び、鋭利になっていた。


 ス―――――――…



 迂闊だった。






 勢いあまったナナは、薔のくちびるを切ってしまったのだ。

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