第2話:Taboo.2



 次の授業は、化学だ。
 教室を移動しなければならない。
 ナナをとりまくクラスメートは、もちろん彼女を心配し、行動を共にしようとした。
 しかしナナは、この情けない自分をもう、人前にさらしたくはなかった。

「ごめん……、わたし、保健室に行くから、先に行っててくれる?」

 懇願すればそれにはもう、逆らう者などいやしない。


 ああ、そうだ、“たったひとり”を、除いたらの話だったな。









「き、聞いておくんだった…………」

 保健室が、どこにあるのかを。

 教科書は未だ届かず、ノートとペンケースを持っているだけなのに。
 そのどれもがナナにとって、鉛のように重かった。

「この学校は、なんだ……?なんでこんなに、いくつも教室があるんだ………?」
 歩き疲れて、階段を上る気力はもう残されてはいない。

 たくさんの生徒がいるはずのこの学校で、ナナはとんでもなくひとりぼっちだった。さまよい歩く、今この瞬間においては。

「もう……ダメだ………………」

 持ち物を、落とす。

 ゼェゼェと息をきらして、ナナは廊下にうずくまった。からだじゅうがゾワゾワし、額には冷や汗がにじむ。


「死なないから………いいけど…………とにかく…………苦しい………………」



 ――…助けて、ほしい………かも…………。



 無意識が生み出したその願いは、絶妙に、届いた。



 ガラッ



 ナナがうずくまっていた廊下が面する教室の、ドアが勢いよく開いた。

 (なに………………?)

 何が起きたのかわからずうずくまっている彼女に、何者かが歩み寄ってくる。

 (なんなんだろ………………?)

 そう思いながらも、顔を上げる努力を怠っていた彼女の腕を、


 グイ――――――――…


 その何者かは力強く引っ張り、出てきた教室に戻っていった。

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