第2話:Taboo.2




「吸血行為中のお前がキレイだと言ってやったのは、本当だ。ありがたく思え。」

 これを、“アメとムチ”とでも言うのだろうか?

「感謝なんてするわけな」
「で、」

 ………………プロだ。
 この男は、話を遮るプロなんだ。


「ならお前は、どうやって俺を殺るんだ?」



「それは、問題なくなった。」
 ナナは拳を握りしめる。
「わたしにはアナタを、殺せない。何故なら“今の”アナタには、この秘密を他言したい気持ちが全くないからよ。」

 それに加えて、“死に対する特別な感情”も、彼には全く見受けられなかった。

「ふーん、」

 うつむくナナをすり抜け、

「あとで泣き言、言うんじゃねーぞ。」

 薔はその言葉を耳もとに残して、静かに教室を去っていった。




「こわかった…………」
 ナナは床に、ヘナヘナと座りこむ。
「あんな瞳…………」
 初めて見たわ。
 逆らい難いを通り越して、逆らうことが許されない。
 そういう“絶対的なちから”を、秘めた瞳だった。
「はぁ〜あ、やんなっちゃう。」
 大きなため息をついたとき、
「うーん…………」
 すっかり忘れていた。
 先ほどナナが殺しかけた男子生徒の、うめき声が聞こえた。
「アンタ、命拾いしたわね。」
 聞こえるはずはないが、そう言った。言ってしまった。
「まぁ、いいわ。記憶を消して、帰してあげるから。」
 ナナは立ち上がり、横たわる男子生徒に向かって歩いていった。




「おかしい。」
 あれから四日後。
 ちなみに補足しておくが、「目撃」をされたのは木曜日の出来事。
 学校を休んだ金曜日から始まって、日曜日までナナは明らかに様子がおかしかったのだが、本人はそれに気づいていなかった。
 と言うより、おかしいとは思っていたのだが、それを認めることを本人が拒んでいた。
 月曜日。
 ナナは、ヴァンパイアになって初めて、憔悴していた。
「三咲さん、大丈夫?」
 クラスメートのほとんどが、ナナのことを心配したくらいだ。
 それもそのはず。

 ナナはあれ以来、一滴も血を飲んではいなかった。

 いや、それでは、語弊があるので言い替えよう。

 ナナはあれ以来、一滴も血を飲めずにいた。

 獲物を捕らえる段階までは、スムーズにいく。
 だが、いざ血を吸おうと試みると、噛みつくことが全くできない。全身が震え、こころが萎縮してしまう。



『キレイだったぞ。』



 そう言われたことが、ナナのなかに大きくつかえた。
 血を吸えば、美しい自分になれるというのに。事実と気持ちが相反しすぎて、ナナはあたまを抱えていた。

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