第20話:Game(+Kidnapping).18





 裏山のなかにある廃墟に、ナナとベンジャミンはいた。
 その廃墟は、昔は立派なホテルだった。


 ナナを抱えてきた男たちは、ベンジャミンが礼を述べると、それとなく金を請求して廃墟を去っていった。
 ベンジャミンは彼らに、二千円を渡していた。



「ちょっと、なに考えてるの!?あんた!」
 ナナは下ろされたため、ベンジャミンに食ってかかろうとした。

 すると、

「君がいけないんだよ、オドレイ。」
 ベンジャミンは、ナナに近づいてきたのだ。


「来るなーっ!」
 食ってかかるまえに、ナナは後ずさった。

「ねぇ、どうして君は、能力つかってないの?」
「え……………?」
 ナナはその質問に、立ち尽くす。

「まさかとは思うけど、あの男のためじゃないよね?」
 核心をつくように、ベンジャミンは不気味に笑った。


「それは、その…………、」
「もういいじゃん、会えないんだから。」
 この言葉が、やはりナナを凍てつかせ。

「やめてよ!」
 声を張り上げ、ナナは叫ぶ。

「会えないなんてこと、ない!もうやめて!」

 しかし、ベンジャミンは言った。





「だって、君を助けにきた時点で、あのひと、死ぬよ?」






「どう……いう……こと……………?」
 このときのナナの深い瞳に気づかなかったベンジャミンは、やはり、男として最低であった。

「僕、能力使って、刺客を送ったもん。」
「なんで……………?」
 ナナは深い瞳でベンジャミンを見ていたが、瞳にはなにも映していなかった。


 ただ脳裏にうかぶ、そのひと以外は。



「大丈夫だよ。人間の刺客じゃないから、絶対に死ぬから。」
 明るく、ベンジャミンは笑う。


 死ぬとは思えなかった。

 ただ彼はいつも淡々と死に直面しているため、ひどくナナを不安にさせた。










 その頃。

 生い茂る木々のなかにあるすこし広いスペースに、薔はさしかかっていた。
 走ると逆に遅くなる木々のなかを、彼は堂々と歩いており。

 そして、その地に足を踏み入れた薔のまえに、




 狼の群れがあった。




「なんだ?」
 まったく動じていない薔だが、狼たちは牙を見せて彼を威嚇していた。

「めんどくせぇにも、ほどがあるな。」
 堂々と、狼すら見下ろして、

「おい、」

 薔は言い放つ。


「時間がねーから、まとめてかかって来い。」


 と。





 しかし、一匹の狼が、そのセリフのあと薔に飛びかかっていった。
 
 むき出しの牙が、まさに彼を捕らえようとした瞬間、


 ダン!!!!


 ものすごいちからを込め片手で狼の喉をつかんで、そのまま薔は木に叩きつけた。

「ギャウン――――…!」
 甲高く呻いて、地面に狼は落ちる。
 痙攣したようなその姿を見て、空気は張りつめた。




「聞こえなかったのか?」
 研ぎ澄まされた瞳こそが、まるで激しく牙を剥くかのようで。


「俺に牙を立てられるのは、あいつだけだ。」




 そして狼たちは、すべてをさとった。






 スッ―――――――…

 わかれた狼たちが、ド真ん中に道をつくる。

「なんだ、聞き分けあんじゃねーか。」

 そこを立派に通り過ぎるとき、薔は、


「あぁ、どーせならオマエら、ついて来い。」




 なにかを思いついたかのように、不敵に笑った。

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