第20話:Game(+Kidnapping).18





 そして、ふたりしてなんとなく時計を見ると、


 7時45分だった。




 (これじゃあ、遅刻しちゃうよ―――――――っ!)

 ナナは慌てふためいたが、
「なんで起こさねーんだ?」
 ………ぇぇえ!?
 抱きついたままの薔は、落ち着き払っていた。


「い、い、いや、とてもじゃないけど、起こせません!」
「なら一日中、一緒に寝てるか?」
 ……でぇえ!?
「俺はいーが、おまえは困るよな、成績面で。」
 …ぇぇぇぇぇぇぇえ!?


 またしてもべつの意味で絶句のナナだが、このあとふたりして、別々の部屋で着替えた。
 制服は、ちゃんと乾いていた。
 んでもって、きちんと洗濯された下着も、乾いていた。
 この時点で、ナナがどんなカッコで薔と寝ていたか(しかも抱きつかれていたか)、ご想像願いたい。



 朝食の時間はなかったため、ナナだけウイダーinゼリーを手渡された。
 10秒チャージのそれを、時間をかけて大切に飲む彼女は、またしても薔と手をつないで登校したのであった。




 とりあえず、遅刻はしなかった。






 この日はやたら、平和だった。
 あまりにも平和だったため、学校ではちょっとしたささやかな、“愛の告白”がおこなわれた。
 片方はかなりの主要人物なので、実況させていただこう。






 休み時間。
 こけしちゃんは吉川のもとへ、朝のホームルームでうっかり返し忘れた、昨日部活のときに借りた消しゴムを返却しに行った際、


「さ、桜葉さん!」


 運が悪いのであろうだれもいない廊下で、とある人物に呼び止められた。




「なぁぁにぃ?」
 ニコニコして振り向くと、このときばかりは顔真っ赤の、野球少年・黒熊くんが立っていた。

「黒熊くぅん、どぉぉしたのぉ?」
 おっとりとこけしちゃんが尋ねると、

「あの、今大チャンスなので、告げます!」
 黒熊くんは言った。


「好きです!付き合ってください!」



 と。




「えぇ?」
 にっこりとこけしちゃんは、目をぱちくりさせた。

 (か、かわいらしい!)
 黒熊くんは、あらぶった。


 そんななか、こけしちゃんはニコニコと述べた。




「あのねぇぇ、あたしはねぇ、Sな美形が好きなのぉ。」




 ってね。




「えぇえ!?」
 仰天する黒熊くんのまえで、こけしちゃんは相変わらずのニコニコ顔だ。

「そ、それは、もしや………………、」
 言いかけた黒熊くんに、
「勘違いしないでねぇぇ?」
 こけしちゃんは、キュートに言い聞かせた。


「あのねぇ、一番のSな美形はぁ、親友のナナちゃぁんのものだから違うのぉぉ。」


「はい………………?」
 ポカンとする、黒熊くん。
「それにねぇぇ、あたしはぁ、二次元をこよなく愛してるのぉ。」
「ぇえ!?」

「黒熊くんも今度ぉ、“ドS探偵・ゴルゴンゾーラ”チェックしてみてぇ?」
「ぇぇえ!?なんですか!?その、ドSにふさわしくないお名前は!?」
 黒熊くんは、のけぞった。


「面白いよぉぉ?」
 にっこりと去ろうとしたこけしちゃんは、


 振り向いて、


「お友達なら歓迎だけど、ストーカーはやめてねぇ?」


 と、残して、ゆったりと歩いていった。



「さ、桜葉さん、かわいらしいのに言うこと過激!」
 黒熊くんは、Mのこころに火がついた。

 しかし、友達に落ち着こうと内に秘めたのだった。

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