第1話:Taboo.1





「では教科書の52ページ目なんだが…………」


 先生が促したとき、

 (あぁっ!教科書、まだないんだった!)

 ということに気づいたナナ。

 不本意ながら、
「あの、教科書見せてもらえます?」
 隣の(ナナにとっては憎たらしい)男の子に、言った。


 そして返事は、こうだった。


「見せてやってもいいが、閲覧料はきっちり払えよ。いっそ、カラダでもいーぞ?」


 えぇえ!?
 こいつ今、なんて言った!?

「じゃあ、いいわ……!」
「あ?お前、教科書を見ずとも理解できるほど、脳ミソつまってんのか?」
 え?
「どう見ても、なんもつまってねーだろ。」

 …………………ひどい。



 と、散々なことを言って、暮中は自身の机を、ナナの机に近づけた。

 (あわぁ!いくらとられるかわからないけど、お金のほうがいいよ!わたしは!)

 本来ならしなくてもよい心配をしていたとき、

 (ん?まてよ。)

 ナナには、ふと気になったことがあり、

「暮中とやら、おぬし、名前は?」
 そう、とっさに聞いた彼女に対して、彼は言った。


「この俺を“おぬし”と呼べる、逆にお前の名はなんだ?」


 ………ぇぇぇぇぇえ!?

 さっき名乗ったよ?担任が。

「えーと、“三咲 ナナ”とさっき名乗っ」
「“ショウ”だ。」

 おぉお……!
 わたしの話も聞けよ!


「か、漢字は?」
 次にそう聞くと、

「教えたところでどーせお前には書けねーが、教えてやろう。ありがたく思え。」


 すごいことを言って、ノートの隅に、

 “薔”

 と書いた。




 珍しい漢字。

 ……それより、ば、薔薇、だよね?
 かろうじてわたし、この漢字知ってるよ?




 (コイツが、薔薇…………?)




 またしてもショックを受ける、ナナ。
 (でも、テストのときとかいちいちこの名前書くの、難しいよね!?)
 なんてことを考えているうちに、授業は進んでいった。






 (…いやしかし、コイツ……)
 めちゃくちゃいい匂いがするんですけど!!

 なんなのもう(泣)

 打ちのめされた感は否めなく、ナナは心地よい香りにますます腹が立ったのだった。

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