第1話:Taboo.1





「…三咲(みさき)ナナさんです。みんな、仲良くするように。」
 担任教師がクラスメートに紹介した、彼女。




 三咲ナナの物語が、真紅の幕を上げた。




「よろしくお願いします。」
 けっこう無理したスマイル。でも、
「おぉ〜!!」
 教室中がざわめき出した。
 (まぁ、チョロいもんよ。)
 ナナは、少しだけ優越感を取り戻す。
 中途半端な時期だったが、前の街に飽きたことと、同族とのいざこざがキッカケでこの街に越してきた。
 名前はもちろん、本名ではない。時代や土地柄に合わせて、彼女は改名を重ねてきた。
 今回の名前はけっこう、気に入ってはいる。そして今はこの名が、彼女をさし示してくれているのだ。


 ナナが教室を見渡していると、
「あぁ、三咲くんは、廊下側の一番後ろの席に座って。」
 担任が笑顔で言った。
「はい、」
 どこの学校でも、毎回廊下側の一番後ろの席になるように仕組まれている。その場所が最も、獲物を探しやすいから。
 クラスメートの羨望の眼差しをすり抜け、席に着こうとしたとき、
 ナナは本当に何気なく、隣の席を見た。
 そして、



「ぅえっ!?」



 すっとんきょうな声を、上げてしまったのである。

 教室中が、彼女を見る。




「ア、アンタ………」



 ナナがこれから毎日座るであろうその席の、隣の人物、

「あ?」

 チラッとだけ、ナナを見る。



 机のうえにあしを乗せんばかりにしていたそのひとは、今朝の“もんのすごく美形な”男の子だった。


 まさか同じクラスだったとは……。





 “これはただの偶然か?それとも皮肉な運命か?”





 かなしきかな、このときのナナは、そんなことを微塵にも思いはしなかった。





「あ?って、アンタねぇ………」


 ぶつくさ言いながら席に着くが、男の子は素知らぬ顔。
「おお?暮中(くれなか)、知り合いか?」
 先生が尋ねると、
「…………………。」
 暮中(というのか)は黙ってナナを見たあと、
「見たこともねぇな。」
 と、言った。
 (さっきアンタ、見ただろうが!おまけにゆびさしたわ!)

 お前なんかよりわたしのほうが、何百年長生きしてると思っとるんだ!?

 (最近の若僧は、礼儀っつうものがなっとらん!)※言葉遣い、実年齢があからさまになっているのか?
 イライラしながら暮中を睨みつけたが、こちらを見ていない相手にはいくら凄んでも効果がなく………、

「では、授業を始める!」

 授業が始まってしまった。
 (くそぅ……、小僧め、今に見ておれ………)
 メラメラと燃え上がるナナのなかの熱い闘志が、シャープペンシルの芯を折った(行動がちっさ!)。

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