第1話:Taboo.1
「あ、あなた、わたしと同じ高校みたいね。」
制服でそのことを覚ったのか、彼女は嬉しそうに笑った。
「マジっすか!?」
喜ぶ不良学生に対し、彼女が思ったこと。それは、
――これはけっこう使えるかも――――――…
「案内してくれない?」
彼女がちょっと甘えた声を出しただけで、
「ももももちろんデス!」
みんな、こうなるのだ。
これはヴァンパイア特有の能力、“香牙(こうが)”というもの。フェロモンに似てはいるが、効果は絶大。
“香りの毒牙”、が語源とされている。
彼女、見た目だけで周りを虜にできるほどの、美人とは言い難い(失礼)。それなのに、絶対的に周りをたぶらかせるのは、種族の能力に他ならない。
特有のチカラで獲物をおびき寄せ、捕らえる。そうでもしないと、完璧な捕食はなし得ないのだ。
付与したのは他でもない、“ヴァンパイアの王”である。彼は自らを石像と化し、今でも種の秩序と繁栄を守り続けている。
ヴァンパイアたちはみな、彼に対して絶対的な信仰心を持ってはいる。それは、“死”に抱く羨望を打ち砕けるほどの、ちからとなりつつあった。あくまでも、現段階では。
どん欲が生み出したこのチカラのおかげで、食事に困ることはなかった。
「行きましょうか?」
不良学生が、そう言ったとき――――…、
「おい、どけ。」
後ろから声がした。
「は…………?」
驚いて振り返る。
ザワ―――――…
風が、吹いた。
そう言えば今は、初夏になるのか。
そんなことをふと、考えたりした。
彼女たちの後ろに、男の子(と言っても高校生くらい)が立っていた。
(な、なんだ?この子、)
もんのすごく、美形なんだけど………
「だれがそこに立てと言った?逆にソイツは勃ててるみてーだが、ヤるならほかでヤれ。」
……はぃぃぃぃぃい!?
「あわわわわわ!!」
不良学生は、口をパクパクさせた。
「ちょっ、待て!この人のまえでなんてこと言ってるんだ!?」
「あ?」
不良学生がキレたので、男の子は女子高生を見て、
「逆にソイツはなんだ?」
と、彼女をゆびさして言った。
(え……………!?)
「てめぇ!」
また不良学生がつっかかっていくが、男の子は涼しげな表情。
(こ、この子、まさか………………)
わたしの香牙が、効かないとでもいうの!?
唖然として、立ち尽くす。
話には、聞いていた。
ごく稀に、人間のなかにも特別な能力を持つ者がいて、ヴァンパイアの能力が太刀打ちできないことがある、と。
しかし彼女は三百年以上生きているが、その者に会ったことはまだ一度もなかった。いることを、忘れていたくらいだ。
それが、こんなところで出くわすなんて……
不良学生が彼に、殴りかかっていったとき、
ぱしっ
その手はいとも簡単に、一払いされた。
「なぁあ…………!?」
唖然とする不良学生には目もくれず、堂々と去っていった男の子を見て、
「アイツ、追いかけますね!」
という不良学生に、
「そんなことしなくていいから、案内してよ。」
とは言ったものの、
(なんか、腹立つ。)
無性に彼女は、腹が立っていた。
――…太刀打ちできない人物が、あんなにも美しいからかな?
ヴァンパイアになってからはおそらく、初めて感じた屈辱感。呼び覚まされた感覚に、彼女はとめどない苛立ちを感じていた。
……このとき彼の制服も、ちゃんと見てました?
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