第1話:Taboo.1






「あーあ、だるいよ〜。」
 なんて言いながら、大あくび。
 疲れきった表情の、“見た目は”女子高生。
 (昨日の獲物(アイツ)、マズかったからな。)
 新しい街に来て、最初の獲物だったのに―――――……。
 出だしがこれじゃあ、先が思いやられるよ。

「肩痛いし、」
 そう言って背伸びをしたところで、誰かにぶつかった。
「………ってぇな、」
 見ると、いかにも柄の悪い、不良学生だ。
「どこ見て歩いてんだ?」
 すごい目つきで、睨みつけてくる。眉間にシワまで寄せて。
 しかし、女子高生はひるむ様子もなく、
「ごめんなさい。」
 軽く微笑んでみせた。
「……………………。」
 しばらく彼女を見つめる、不良学生。
 収拾のつかない事態になりかねないと、思われた。
 だが、次の瞬間、
「い、いいんデスよっ!おれのほうが、悪かったッス!」
 不良学生のほうが、デレッと態度を一変したのである。
「ホントに、気をつけます!」
 何と、頭まで下げる始末だ。
「フフッ…、いいのよ、気にしないで。」
「あ、ありがとうございます!」


 ………人間なんて、みんなこうなるんだから。



 ヴァンパイア――――…
 その言葉がいのちと切っても切れないものになってから、彼女は随分と生きている。
 永遠に、16歳のままで。
 不死身の命。彼女は恐ろしいほど冷徹な、終わりなき生命力を手に入れた。
 人間が進化を遂げるのと同じで、ヴァンパイアも進化をし続けた。
 今では太陽も平気になり、天敵の存在もなくなった。
 心臓に杭を打たれても死なない身体、つまり、事実上の不死身を手に入れたわけだ。
 愛する者は、みな死んでゆく――――…
 そう言って、血をいっさい吸わないことで、“死”を手に入れようとしたヴァンパイアがいた。
 しかしその者は、ただ干からびてミイラのようになっても、結局は生き続けていたのだ。
 そのことがヴァンパイアの世界で風聞になってからは、死のうとする者がいなくなった。
 …………少なくとも、彼女の知り得る限りでは。

 だからみな、獲物を探しながら、終わることのない時間を生き続けている。そう、永遠に。
 きっと、確固たる“死”を与えられる者が現れたら、喜ぶヴァンパイアは多いはず。
 まぁ、彼女は幸いなことに、まだこの人生に少しも嫌気がさしてはいなかった。




 そして、嫌気がささなかったことを、ありがたく思う日がやってきます。

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