※第12話:Game(is Love?).10






「やだぁあ――――――――――っ!!」

 夜空の下の屋上にて、ナナの声は響きわたった。


「やだよぉ!え?なに?夢?夢なら、たちが悪すぎるよ?覚めてよ?ねぇ…!こ、こんなこと言ってる場合じゃ………!」

 ナナはガタガタと震えるからだを全力で動かし、フェンスから乗り出すようにして、下を覗き込んだ。




 血は、一滴も流れてはいなかった。



 月明かりの下、薔は静かに瞳を閉じ、おそろしいほどにうつくしく、横たわっていた。





「ど、どうしよう……………?震えが止まらないよ………………?」
 ナナはからだを抱えるようにしてうずくまる。
「こんなこと、してられないよぉ……!下りなきゃ………………!」

 しかしすぐに、見ていられないほどの姿で必死に立ち上がると、

 ダッ―――――…!

 ナナは駆け出した。


 この間、彼女は、ただのいちども、まばたきをしなかった。






 上ってきたときはあっという間だったのに、下りはおそろしく長く感じられた。

 ガン――…!


「いた…………!」

 そして何回か、転びたくないのに、転んでしまった。


「わたしのばか……!急いでよ、お願いだから…………!」

 泣いていた。
 まばたきを忘れた瞳からは、涙がボロボロとこぼれ落ちていた。


「なんでわたしは、泣いてるの…………?あのひとのまえでしか、泣いちゃダメなんだよ……………?なんであのひとは、いないの……………?なんで、落ちたの………………?」


 ゾク―――――――…


「な、なに言ってるの?わたし……、落ちてなんかないよ?ねぇ?」



 夢だ、夢だ夢だ夢だ、これは悪夢なんだ………!




 ひどく長く感じられた階段を下りきると、ナナは、先ほど見下ろした場所へと、一目散に駆けていった。






 月明かりは、照らし出していた。
 先ほどの場所を。

 しかしそこに、薔はいなかった。


「どこへ、行ってしまったの…………?」
 あれは、死体だったの?

 こころ深くから、ゾッとした。

 死体という言葉が、とてつもないおぞましさを携えて、おもくのしかかってきた。



「どこ…………?どこなの……………?どこに、行ったの………………?」
 ナナが泣きながらあたりを見回し、手当たり次第にいつまでだろうと探し、見つけだそうとこころに決めたとき、




 ぎゅっ…




 うしろから彼女は、何者かに抱きしめられ口を手でふさがれた。




「ん――――――――…っ!?」


 助けを呼ぶまでも、なかった。
 懐かしい香りが、すべてを物語っていた。

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