第11話:Game(&Down).9




 ナナは激しく動揺していた。
 授業中も、なかなかギャラリーが減らないことにと、朝から薔はものすごく落ち着きすぎていたからだ。
 その静かな雰囲気があまりにもおそろしくて、ナナはどうしたらいいのかがわからなかった。


 (あわぁ………!なんか、すごくこわいよ、ムードが!なんか怒ってらっしゃるのかぁ!?)
 もはや、授業どころの話でないナナ。
 あたふたしているばかりだったが、


「おい、」


 いつもによって、いきなり声をかけられた。授業中に。

 びくびくぅ!
 ナナはシャープペンシルを、驚きのあまり机に落とす。

「は、はいぃ…………?」

 おどおどと返事をすると、


「お前、放課後残れよ?」

 と言われた。


「え?なぜに、ですかね?」
 キョトンとするナナ。

「話がある。」

 それだけ言うと、薔は黙った。


 (話、って、なんだ?)
 そればかり考えていたので、ナナは授業内容をほとんど聞いていなかった。
 そして周りのギャラリーは、ここらへんからかなり、ナナがとても羨ましいと思っていた。





 その日の最終授業は、体育であった。
 やたら暑い日差しのなか、1年5組の生徒たちはグラウンドに集まった。

「今日はやたらあっついが、水泳は3年2組とかぶっちゃったから、グラウンドでテニスやるぞ〜!」
 ちょっとイケメンの体育の先生(そしてちょっとワイルド)が、すでに手にしていたラケットを振りながら、声を張り上げた。


「あついよ先生〜。」
 ほとんどの生徒が、愚痴った。

 そもそも、かぶらないように授業のロケーション組んでよ!もう!



 愚痴ってはいたが、全員次々と、ラケットを手にしてはいた。




 ナナは、テニスははじめてだった。
 ラケットのタイミングがまったくつかめず、ボールはほとんど素通りしていった。

 (ちょっと!テニスって、なに?ラケットって、いつ振るの?わかんないよ!)
 ナナが焦ってムキになっていると、



「ぎゃあ――――――――っ!!」
 隣のコートで、黒熊くんの悲鳴が聞こえたのだ。



「なんだろう……?」

 見ると、なんと黒熊くんは、薔と対戦をしていた。
 そして薔の打ったボールは、黒熊くんのラケットを貫通し、うしろのネットから壁にかけて、めり込んでいたのだ。

「ひぇぇぇぇぇえ…………!」
 顔真っ青で、立ち尽くす黒熊くん。

「おい、いい加減打ち返せよ。ラリーになんねーぞ?」

 そう言う薔ですが、

「ムムムムリです!勢いあまっていまは叫びましたが、およそ4本、ラケットをお釈迦にしています!」
 黒熊くんは、首を横にブンブンと振った。


「テニスにおいても空振りみてーだな、オマエは。」

 いや、振って当たってるのもあるから、ラケットはお釈迦になってるんだよね?




「ギャァア――――――――――ッ!!」
 この光景を見ていたギャラリーは、もんのすごい悦びの雄叫びをあげた。


 見かねた体育の先生が、

「お前たち、自分の授業に戻りなさい!」

 と、声をかけたが、

「イヤです!授業より薔さまのほうが、大事です!」

 ギャラリーは頑として言い、動こうとしなかった。


「はぁ…………」
 体育先生が、ため息をついていると、



「おい、オマエら、」


 なんと、授業より大事だと言われた薔本人が、ギャラリーに向かって声をかけたのだ。


「は、はぃい……………!?」

 もはや目がハートなんだかなんなんだかはわからないが、みんな、(褒められるのかな?)とは思っていた。



「本気で言ってんのか?それ、」

「え?は、はい………!」

 見上げる、ギャラリー。


「もう一度、よく考えてみろ、無えあたまで。」

 …………………はい?



「それでも俺のが大事だと言うなら、いっそ退学しろよ?学問ナメんじゃねーぞ。」



 唖然。(by.ギャラリーいちどう)




 そう言い残し、背を向けた薔。




 ギャラリーは、次々と散っていった。




「すごぉ!暮中、お前はすごいな!学問は大事だよな!」
 喜んで腕を組む体育の先生を、薔は完全無視したのであった。

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