第11話:Game(&Down).9




「あ?」

 薔がすこしだけ振り向くと、そこには例の、林夏川 広志先輩が立っていた。


「誰だ?キサマは、」
「ぇぇえ!?」

 しかし薔は、あんなにも目立っていた広志先輩のことを、まったくもって知らなかった。
 興味がいっさいないからだ。


「ボク、学園祭のときにものすごく目立ってたよ!それにボク、ものすごく美しいで」
「オマエ、」

 ………………はい?


「やたら髪長げぇな、何時の時代から来た?」

 ……………え?

「現代において、見た目ヴィジュアル系でもねぇヤツのロン毛は、おそろしいほどにキメェぞ。」

 ………………ぇぇえ!?

「え?ボク、見た目ヴィジュアル系では、ない?」
「ヴィジュアル系とは無縁のオマエに、ヴィジュアル系の何がわかる?」

 …………………ひどい。


「いっそ、刈るべきだな。」
 そう言い残して去るつもりだった薔の背中に向けて、広志先輩は叫んだ。



「言っておくが、三咲 ナナさんはボクの彼女だからな!」


 と。

 薔はぴたりと歩みを止める。



「彼女はもう、ボクに夢中なんだ!キミなんかがはいれる隙は、どこにもないんだ!」
 ここまで叫んだ、広志。




「へぇ、」

 薔が振り向いた。


 ゾクリ―――――…

 広志はその冷笑に、とてつもない悪寒を感じた。




「だれがんなこと、決めたんだ?」

 歩み寄ってくる薔から逃げ出したくはあったが、広志は必死で声を張り上げた。
「ナ、ナナさんは、ボクのまえで、ボクを見た瞬間に泣きながら走り去ったんだ!あの姿は、恋をしている女の子だ!彼女はあの瞬間に、ボクに惚れたんだ!」
 後ずさった広志先輩のまえで、薔は歩みを止めた。
 薔のほうが、背は高かった。よって彼は、広志を見下ろしていた。


「おもしれぇ。」


「う……ぐ…………?」


 もはや怯えてすらいる広志を見下ろしながら、薔はつづける。


「やってみろよ。あいつを俺から、引き剥がしてみろよ。」

 ガッ――――――…

 そして薔は、広志の首をつかんだ。

「うごぉ…………!」

 もがく広志。
 に、放たれた言葉。


「引き剥がすなら、体も心もやれよ?」

 …………………え?

「もしできたら、」

 息苦しくも、あっけにとられる広志。




「消えてやるよ、俺は。」





 バッ…………!

 そう言い終えると、薔は手を離した。


「ゴホッ……グァッ……………!」
 そして、廊下に手をついてむせる広志から、彼は静かに去っていった。




「えぇ?なんかあのひと、ものすごく恐いよ……!ボク、どうしよう?」
 広志先輩は、泣きそうだった。







「あの、バカ。」
 広志から去った薔は、自身の教室へ目をやりながら、そう呟いた。
 呟きながら向かっていたのは、なんと、校長室だった。
 そしてこの間、けっこうずっと、周りはさわいではいた。
 空気、読もうね?

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