第7話:Game(+Disease).5




 それはかなしいくらいにすきとおり、よく晴れた土曜日のことでした。


「ナナ〜、ちょっといいかぁ〜?」
 階段のしたで、ナナ父がナナへ呼びかける。

「なに〜?」
 ナナが二階からひょこっと顔を出すと、
「ちょっとな、お母さんがギックリ腰になっちゃったから、湿布薬買ってきてくれないかぁ?ヴァンパイアだから、病院へは行かなくていいけど、とにかく湿布に頼るべきなんだよ〜!」
 と頼む、ナナ父。

「えぇえ!?そんな大事な役目が、なんでわたしなの!?お父さんが行くべきでしょ!?」
 驚くナナは、
「お父さんは、腰をいためてるハニーに、ずっと寄り添っていたいんだよ〜。頼むよ〜!」
 と、手をあわせてまで懇願され、ナナはひどくラフな格好で、薬局へと向かうことにした。







 薬局で、湿布薬についての詳しい説明を受け、どれがもっとも背の高い女性のギックリ腰にとってベストな湿布薬なのかをたまたまいた薬剤師と真剣に悩んでいるあいだに、時間がけっこう経っていた。



「あちゃ〜!湿布薬って、種類がたくさんでこんがらがるよ!」
 ナナが、ようやくベストだと思われる湿布薬に出会え、薬局を出たとき、

 目のまえを、まさに、“ギャル”が通り過ぎてゆくところであった。




「ちょっと〜、さっきスゴイ子見ちゃったから、写メろうと思っんだけどさぁ〜、」

 ……わたし、“しゃめ”って言葉、知ってるよ!
 でも、辞書引くの忘れてたよ〜!

 などと考えていたので、ナナは無意識にもギャルの会話に意識を傾けていた。


「アタシそんときいた〜?」
「いたら逆に教えてるって〜。」
「そっかぁ。」



 つぎの会話が、およそ生き物でない噂を、裏付けてゆくこととなる。


「それがさぁ〜、写メるまえに、ガンとばされただけで、カメラ機能が使えなくなっちゃったのよ〜!」
「えぇえ!?そんなスゴイひと、なんで写メらなかったの!?」
「アタシの話、聞いてた〜?」


 ………………なんだ?

 よくわからないんだけど、いやなんだかなんだか、予感が止まらないんだが……………………。

「どういうふうにスゴかったか、教えてよ〜!」




「いや、とにかく、めちゃくちゃなんてもんじゃなくかっこよかったんだよ〜!!マジで〜!!」
「マジで〜!?」




 ぎゃあぁ―――――――――――――っっ!!





 (よよよし、わたし、なにごともなかったかのように、湿布薬をうちに送りとどけよう!)

 と、ナナが必死で言い聞かせ、角を曲がったとき、




 ザッ―――――――…





 目のまえを、おそらく、ガンをとばしただけでカメラ機能を停止させたひとが、歩いていた。











 真っ黒なスーツを、ラフに着こなしていた。
 着こなし方は、価値観ですが、こころはとても厳粛です。
 そして薔は、左手はポケットに入れていたが、右手には花束を持ち、それを肩に乗せて堂々と歩いていた。




 (あわぁあ!!いたよ!!)


 ナナは思わず電柱のかげに身をひそめたが、いつの間にか、隠れてあとをついていた。



 (どこへ、お行きになるおつも)
「おい、そこのストーカー。」




 ぎゃぁぁぁぁぁぁあ……………!!




「なぜにわかったんですかぁ!?」
 ナナが思わず飛び出してゆくと、

「ビニール袋を下げたまま、ストーカーするやつがいるか?擦れてんぞ。」

 根本的なものからして、ナナにはストーカーは無理であった。

「俺とするまえに、なにを擦らしてんだ?お前は。」

 はいはいはい!?

 よくわからないですけど、それって結局エッチですよね!?


「スミマセン!しかしアナタさまはそんな色気ヤクザの組長みたいなカッコで、どこへお行きになられるのですかぁ!?」
「墓参りだ。」


 え―――――――――…?







「いっそお前も引き連れてやる、ありがたく思え。」

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