第7話:Game(+Disease).5




 初老の紳士はふとこちらを見たので、どうやら眠ってはいなかったようだ。



「ない罪はつぐなえませんよ、だって、ないんですから。」
 そう言ってナナは、立ち上がった。

 ただ黙ってこちらを見ている女性に、ナナはおそらく長い月日が無駄ではなかったと、かざしてみせたのであろう。


「でもそれをどうしても罪としてあなたが背負うのなら、どうかその背負った罪がいつしか軽くなって、やがて忘れちゃうくらい、しあわせに埋め尽くされて生きてください。」





「それがきっと、“ない罪”においてのつぐない(=禊ぎ)です。」








 陰りだした空を埋め尽くすはずだった雲は、いつしかあらい流されていた。
 そしてあかく、染まりゆく空。



「では、わたしはこれにて失礼いたします。ここはワリカンとかいうやつで、お願いします。」


 ペコリとあたまを下げると、ナナは伝票をつかんで女性のまえを去っていった。










 カラン――――――…

 ナナがでていったあとの、喫茶店にて。

 すっかり冷めたコーヒーに、目を落としてはいたが、




「あのかたはいまきっと、しあわせになろうとしているんだわ。」





 その言葉は、深く浮かび上がっていった。
















 ズンズンズン

 ナナはズンズンよく歩く。
 拳をかためて、まえを見て、しっかりと大地を踏みしめて。




 (どこが………どこが……………………、)




 どこが汚れきっているんだ!!!?




 (この間つけられたから、わたしも言わせてもらうよ、)




 ほんっとうにアナタさまは、“ド”クソバカやろうだよ!!

 クソでもバカでもない世界において、すごくうつくしくね!



「どうなってるんだ?あのひとの魅力は……これじゃあ魅力の独占禁止法にふれまくって、逮捕状が出るよ!」
 なんだ?その法令と、逮捕状。


「そんでもってあのひとのことだから、捕まるわけがないんだから、警察だかFBIだかとカーチェイスとかしても、宇宙までも逃亡してでも支配するよ!」

 (……魅力は阻止しなくていいけど、逃亡は絶対に阻止だよ!?)


 わたし、とんでもなく長いけど、なんだか生きてて良かったよ―――――――――――っ!!



 …………………はっ!!




「でもよくよく考えてみると、日本にはFBIいないし、カーチェイスだって頻繁じゃないし逆に見たことないよ!?」


 ナナは空たかく、バンザイをして叫んだ。




「すばらしき国だな、我がニッポンよ〜!」







 ……………ほめるとこ、そこ?

 逆に泣くよ…………?

 ニッポンは………………。

 …………………たぶん。
















 夕日が差し込む部屋で、薔はきちんと服を着て、ベッドのうえに伏していた。

 そしてそのかたわらに寄り添う、花子のあたまをやさしく撫でて言った。






「明日は俺の家族と、お前の母親の命日だな。」

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