第7話:Game(+Disease).5




「過去?」
 ナナの手が止まる。

 空はすこしずつ、陰りだしていた。





「なんだか、わかるんだけど、あなた、10年前のお話、知ってるんじゃないかしら?」


 そうか…………………。

「……………あぁ、そのことは、痛すぎてくるしいくらいに、存じ上げております。」










「そのお話、すべて、わたしのせいなの。」





 え―――――――――…?











「どう…いう……こと、ですか………………?」
 再びコーヒーに目を落とした女性に、震える声で尋ねるナナ。


 彼女は、静かに、語りだした。








「10年前の、ちょうど日付は明日、わたしはね、飼っていた犬と、その子が3ヶ月前にうんだ子犬を連れて、散歩に出かけたの。」
「は、はぁ…………。」

 それがあのひとと、どう結びつくんだ?



「いつも遊ぶ、公園に着いてから、しばらくボール遊びをしていてね、そしたらふとしたときにそのボールが、公園のなかにある林へ入ってしまったのよ。」
「はぁ………………。」


「わたしはそのボールを、とりに行くときに、親犬は木に繋いだんだけど、子犬のほうを、繋ぎ忘れて、しまったのよね。」
「……………………。」

「そしたらあの子、ふらふらっと、歩いていっちゃったみたいでね、好奇心旺盛な、時期だったからかな、公園の池に落ちて、溺れたの。」

 ………え――――――……?




「でもね、助かったのよ。奇跡的に。」
 コーヒーの湯気は、薄くなっていた。






「ちょうど公園にいた、あのかたが、飛び込んで、助けてくれたの。」












「……………………。」
 ナナは手を握りしめてはいたが、ずっと、黙っていた。

「子犬、名前はルナっていうんだけど、その子を助けてから、あのかた意識不明になって、病院へ搬送されたのよね。」

 カラン――――――…

 サラリーマン風の男性が、新聞を手にとり喫茶店を去っていった。



「でも、でも、そのことが結局、あのかたのご家族を、亡くしてしまったでしょ?」



 ポタッ

 コーヒーに、涙が落ちた。












「わたしはあのかたのご家族を、殺してしまったのよ………………。」

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