赤司視点

休み時間、次の授業の支度をしてから窓の外を見て時間を持て余す。俺の席は窓側の一番後ろだ。だから癒月のクラスが外で体育をやってるとき、癒月を見ていることで時間が過ぎていく。最もいい席だと、俺は思っていたりする。
「…赤司っち」
そんなとき呼ばれた声に俺は振り向かないまま、窓に映ったそいつの顔を見た。そしてそのまま俺は何か用か、と尋ねた。左肩を掴まれて強引に引っ張られる。そのときに見えた俺を殴ろうとする拳。…避けることも出来た。あのくらい簡単に避けられた。だけど、それよりも殴られて、黄瀬に殴られた、と癒月に告げ口するのもいいんじゃないか。お前の所為で俺が怪我をした。そう癒月に云ったら…。癒月は自分の所為だと嘆くだろうか。必死に謝るだろうか。―――…それを考えるのもなかなかに面白い。
「……っ、」
頬に衝撃が走って、身体が机にぶつかった。周りにいた女子は口元を覆って甲高い悲鳴をあげた。
「…いきなり殴られるとはな」
「はは、思わなかったでしょ?」
「ああ。だが、随分軽率だな。お前だけではなくバスケ部に迷惑がかかるとは考えなかったのか。―――…黄瀬」
「考えなかったわけじゃないんスよ?だけど何かあったら赤司っちがどうにでもしちゃいそうなんで」
でしょ?、と首を傾げる黄瀬に舌打ちをしそうになった。それを隠す為に口元に付いた血を片手で拭う。制服の白に赤が混ざった。
「…癒月っちにこれ以上近付くなって云われたよ。…赤司っちの所為で」
「人聞きが悪いな。癒月が望んだことだろう?そこに俺の意見は入っていない」
内心、ざまあみろとほくそ笑んでやった。お前も傷付けばいい。癒月が離れそうになって苦しんだ俺。俺の束縛から逃れられないで苦しむ癒月。だから、お前も存分に苦しんでしまえ。
「俺、無理矢理にでも癒月っちを奪うよ」
その黄瀬の発言に、俺は鼻で嗤ってやった。

もしも世界が二人に優しかったなら
(お前には無理だよ)

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