征十郎が私の首に包帯を巻いていく。また絞められるんじゃないかと怯える私とは対照的に、征十郎は首に付いた赤い痕を愛おしそうに見詰めていた。 「きつくないか?」 『…大丈夫』 首に何回か巻かれた包帯を手で軽く触る。きつくないし、大丈夫だろう。 「悪かった。あんなことをして」 『うん』 大丈夫。征十郎がああなるのは初めてじゃない。幼い頃から一緒にいたんだ、わかっている。たまに、何かの拍子に酷く感情的になることが彼にはあった。初めてのときは鋏を向けられて頬を切られたっけ。あのときはまだ私と征十郎は小学生で、驚いた私は大泣きして征十郎が私を抱き締めて必死に謝っていたのを覚えている。その感情が他の子に向けられることもあった。私に告白しようとした男の子を殴ったり、私の悪口を陰で云っていた女の子の長い髪を鋏で切り落としたり。何とも危ない少年だったと思う。それでも警察沙汰や何かの処分をされなかったのは、きっと征十郎だからだろう。彼の云うことは絶対、だから。 「でもやっぱり癒月が黄瀬と馴れ合うのは気に入らない」 『うん、ごめん』 「癒月が今度黄瀬とあんなことしていたら黄瀬を殺してしまおうかな」 軽く云う征十郎。本当にやるんだろう、彼は。征十郎だったら出来る。それに焦って止めて、と云えば征十郎は笑った。 「癒月は黄瀬がいなくなると淋しいんだな。だったら黄瀬を殺した後に癒月を殺そうか。でもそれだと俺が独りぼっちになってしまうな。それは嫌だな。…ああ、それだったら癒月と一緒に俺も死ねばいいんだな。そうすれば淋しくない」 だろ?、と私に意見を求める征十郎。私はそれに胸が苦しくなった。チクチク、ヒリヒリと心臓が痛いんだ。首を横に振ったらわからない、と云うように彼はきょとんとしていた。 『征十郎は、独りぼっちじゃないでしょ』 「…どうして?どうして癒月はそんなことを云うんだ?俺には癒月だけだ。俺には癒月しかいない。俺の横に立っていいのは癒月だけだ。…そうだろ?」 違うよ、ゆっくりと首を横に振る。バスケ部のみんなは仲間じゃないの?、その言葉が私の口から出ることはなかった。
暴力の神に愛された最凶伝説 (こうなってしまったのは、彼の淀んだ目に気付かないふりをしていた私の所為だ)
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