家に着くとお母さんが征十郎くんが来てるわよ、と云った。本当に仲がいいのね、と云う言葉に曖昧に答えて二階へ繋がる階段を上る。部屋の扉を開くと征十郎が脚を組んで座っていた。顔は下を向いていて見えない。一瞬寝ているのか、とも思った。
『…征十郎?』
「……遅かったな」
征十郎が顔を上げて私を見る。その冷たい赤い瞳は、以前にも見たものだ。前に頬を叩かれたことを思い出して背筋が凍る。
『でも、まだ七時過ぎだよ?』
普通、何じゃないだろうか。生憎私の家に門限何てものはないが、女子中学生が帰る時間としては一般的ではないだろうか。
「俺に口答え?」
彼の瞳が私を射抜く。その視線に身体が震えた。ごめん、と彼の沸点が越える前に謝っておく。
「此方へ来い」
征十郎の手が彼が座っているベッドの横を叩く。私は素直に従って彼の隣へ腰を下ろした。すると彼の腕が私の腰と肩に回る。痛いくらいに抱き締められた。
『苦し、』
「…随分黄瀬と仲良くしているじゃないか」
私の言葉何て聞かずに更に力を込める。征十郎は他の男の子よりも華奢だと思うけど、やっぱり男の子だ。力が強い。
『黄瀬くん…?』
「俺は黄瀬とはあまり関わるな、と云ったよな?それがどうしてキスまでする仲になったんだろうな?」
どうして知っているのか、聞く暇なんてなかった。私を抱き締めていた手がほどけて、今度は私の首へ巻き付く。ベッドに身体を押し付けられて、倒れた私の身体の上に征十郎がのし掛かる。苦しい、息が出来ない。脚をじたばたと動かす。だけどそれさえも無視される。
『……っ!』
ああ、どうして征十郎は今私に口付けをするんだ。そんなことをされたら窒素死してしまう。舌を絡ませた激しい口付けは、私から酸素を奪い取る。首を絞められている所為で息が出来ない。目尻に涙が浮かぶ。本当に、殺されてしまうんじゃないか。征十郎の手によって私は殺されてしまうんじゃないか。意識が、飛びそうになる。その瞬間、唇が解放され、首から手が離される。
『げほ…っ!ごほ!』
酸素を求めて私は喘ぐ。一気に肺に酸素が吸い込まれた所為で咳き込んだ。
『ど、して…』
「癒月、」
征十郎の赤い舌が私の目から流れ落ちた涙を掬うように舐める。その動作が色っぽくて、思わず息を呑んだ。そのまま彼の舌はゆっくりと私の肌を這って先程まで征十郎が首を絞めていたところに吸い付く。何度も何度も、それを繰り返す。チクリ、とした痛みが何回も続く。
『ん…っ』
鼻から出たような掠れた声が出て、私は思わず口を手で覆った。征十郎はそんな私を見て満足そうに笑う。
「感じた?」
『違…!もう止めて、征十郎』
彼は私の唇をあの赤い舌で一舐めして、私の上から退いた。私も急いで起き上がる。
『どうしてあんなこと』
「首を絞めたことを云ってる?キスしたことを云ってる?」
『…両方』
彼はにっこりと笑って云った。
「癒月が俺のものだって云う証拠が欲しかったからかな」

退廃的な彼の接吻
(赤くなった首を見て、彼は首輪みたいだ、と呟いた)


title//花畑心中