ことの始まりはさつきちゃんの一言だった。もう暗くなって来たしお開きにしよう、きーちゃんは癒月ちゃんを家まで送ってあげてね。それに頷いた黄瀬くんは私の声も聞かぬまま歩き出してしまった。そして今、薄暗くなって来た道を黄瀬くんと二人歩いている。
『一人でも帰れたのに、』
「そんなの俺が赦さないっスよ」
『でもさつきちゃんが』
「桃っちには青峰っちがいるから大丈夫っス」
そういえばさつきちゃんと青峰くんは幼馴染み何だっけ。家も近いらしいから嫌でも青峰くんと一緒らしい。
『わざわざごめんね』
「此処で女の子一人で帰らせたんじゃ男が廃るっス。それに、」
癒月っちは特別っスから。その言葉は聞こえなかったふりをした。小さな声でお礼の言葉を云う。
「…それにしても癒月っちは頭がいいっスね!教え方もうまいし」
『そんなことないよ。黄瀬くんは直ぐ理解してくれるから教え易かった』
「それは癒月っちの教え方がいいからで」
『いやいや、黄瀬くんが』
「いやいや、癒月っちが」
そこまで云って二人で同時に吹き出した。黄瀬くんは綺麗な声で笑う。
『役に立てたみたいで良かった』
「癒月っちはどうして頭いいんスか?」
元の頭のつくりが違うのか、と呟く彼に首を横に振る。私は自分が頭がいいと思ったことは一度もない。だっていつも横で征十郎を見てたから。本当の天才、って彼みたいな人のことを云うと思うんだ。
『私が勉強するのは征十郎がいるからだよ。征十郎が教えてくれるから勉強するんだ』
「赤司、っち?」
『うん。テスト前には征十郎が勉強を教えてくれる。だから私は頑張るんだと思う』
「それって、赤司っちがいなければ勉強しない、みたいな云い方じゃないっスか」
確かに、そうなのかもしれない。今まで考えたことなかったけど、征十郎に追い付く為だけに勉強していたかもしれない。黙り込んだ私を見ながら黄瀬くんは口を開いた。
「俺、赤司っちが中心で世界が回ってる癒月っちは嫌い、」
『そんなこと云われても、困るよ』
「癒月っちの世界の中心に俺がいたらどんなに良かったか」
彼の大きな右手が私の頬に触れる。そのまま近付いて来る顔。何故か世界がスローモーションで動いているように見えた。唇に触れる柔らかい物体。それが何か何て、私には既にわかりきっているもので、
「癒月っちが好き」
さっきまで私の唇に触れていた彼の唇がゆっくりと弧を描く。

生ぬるく口づけ
(驚いて目を見開くと黄色い世界)


title//花畑心中

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