黄瀬くんに渡された地図を見る。これには黄瀬くんの家までの道のりが描かれている。黄瀬くんの少し下手な絵を見ながら歩く。目的の場所は私の家からそう遠くないところにあった。何処にでもある一軒家。ローマ字でKISEと書かれているから此処で合っているんだろう。チャイムを押すと、中からどたどたと足音が聞こえて直ぐに黄瀬くんが顔を覗かせた。
「癒月っち!」
『こんにちは、黄瀬くん』
「こ、こんちは!どうぞ、上がって」
『お邪魔します』
靴を揃えて黄瀬くんの後に付いて行く。さつきちゃんと青峰くんは来ているのか、と尋ねるともう部屋にいると云われた。黄瀬くんの部屋に通される。黄色を基調とした綺麗な部屋だと思った。青峰くんは黄瀬くんのベッドに横になって漫画を読んでいて、さつきちゃんはそんな青峰くんを怒っていた。
「二人は何やってんスか」
「青峰くんったら勉強しないんだもの!」
「というかそれ俺の漫画!」
「其処の本棚に入ってた」
「勝手に漁ったんスか!」
「お前が表紙の雑誌が本棚に「あああああああああ!」
「きーちゃんも煩い!勉強やるよ!」
呆然と立っていた私に気付いたさつきちゃんは其処ら辺に座っていいよ汚いけど、と声を掛けた。それに酷い!、と云う黄瀬くん。
「私数学がわかんなくて…。癒月ちゃん教えてくれる?」
『うん、私がわかる範囲だったら。何処がわかんない?』
「此処何だけどね、」
この問題だったら多分解ける。前に征十郎に教えて貰ったところだ。なるべく丁寧に、わかりやすいように教える。さつきちゃんは直ぐに理解してくれて黙々と問題を解いている。良かったちゃんと説明出来た、と内心安堵した。そう思って自分の問題集に目を通す。わからない問題は帰ったら征十郎に聞こう、そう思いながら。ふいにペンを持っている方の手を引っ張られる感覚がした。目を向けてみると服の裾を引っ張っている黄瀬くん。
『どうかした?』
彼は私の耳元に口を寄せる。その顔の近さに少しどきり、とした。
「―――…俺にも構ってよ、癒月っち」

色を失った甘い白昼夢
(どきどき。熱を含んだ彼の視線に胸が跳ねた)


title//花畑心中


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黄瀬くんに「こんにちは」と「俺にも構って」を云わせたかった

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