教師と生徒の恋模様 | ナノ




22 : 生徒の見分けはたった一目で


運動場では運動部が声を張り上げて活発に動いている。窓から入る夕日が校舎の廊下を照らした。片手にはまだ開けていないいちご牛乳。自販機で買って職員室に戻る途中だった。3Dの教室の前を通ってみれば人影があった。別に放課後まで教室に残って勉強しているのは珍しいことじゃない。…3Dじゃなければ。その人影をよくよく見てみればそいつは机に俯せていた。しかもよく見知った人物じゃねェか。
「…さくら?」
シャープペンを握ってノートを下敷きにして、本人はぐっすりと寝入っていた。うっすらと目の下に隈があるようにも見える。きっと勉強勉強で疲れているんだろう。ぐっすり眠っているのに起こすのも気が引ける。そのままにしておこう。
そっとさくらの頭を撫でる。擽ったかったからか少しみじろいだが起きることはなかった。
「…あんま無理すんなよ」
手に持っていたいちご牛乳をさくらの机の上に置く。そのままさくらを起こさないように足早に教室を立ち去った。


『ん…、』
私はいつの間に寝てしまったんだろうか。少し寝てしまった所為か頭がくらくらした。時計を見てそんなに寝ていないことを確認してから書きかけのノートを見る。ひょろひょろと文字ではない線が出来ていた。上体をゆっくり起こすと肘に何かがあたって倒れた。そこにはいちご牛乳。私が置いたんじゃない。じゃあ誰が。思い浮かんだのは一人だけだった。
『銀八、せんせ…?』
だけど教室に先生の姿はない。私が寝ているときに置いて行ったんだろう。いちご牛乳に目を向けるとパックに乱雑な字で文字が書かれている。

待 っ て る

心がほかほかとした。いちご牛乳を開けて口を付ける。甘い味が口一杯に広がった。

生徒の見分けはたった一目で
(ありがとうございます、と心の中で呟いた)

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